第37回 有田と染付 vol.4

有田焼の特徴は、何といっても、美しい磁土の肌。
ここ数回にわたってお話ししてきた青い絵付け「染付」も、その美しい素地があればこそ絵柄が引き立つわけです。

有田と染付

有田焼の歴史のはじまりは、400年前に磁器の素地の原料となる陶石が発見されたこと。
豊臣秀吉の朝鮮半島出兵に加わった鍋島直茂が連れてきた朝鮮人陶工・李参平が泉山で陶石を発見し、磁器制作を始めたと言われています。
有田には、後に使い勝手の良い天草の陶石が流入するようになりますが、前回お話しした工房禅のように、有田焼黎明期の器(初期伊万里)の風合いを表現しようとする作り手は、現在も泉山の陶石を使って制作をおこなっているそう。

有田と染付

泉山の採石場を訪ねてみると、その壮大さに圧倒され、有田焼の歴史の重みを感じます。
やきものに必要な陶石を求め、地表がひたすら掘り進められ、人工的にこのような景観が作られたのです。
平日に訪れたら、観光客もほとんど見当たらず、この広大な空間を独り占めすることができました。目を閉じると採石工たちの息遣いや荒々しく陶石を掘り出すたくさんの槌音が聞こえてくるような気がします。

有田と染付

泉山採石場を発見し、製陶をはじめた李参平は、有田では今も陶祖として敬われています。
この李参平を祀っているのが小高い丘に建つ陶山神社で、境内に入ると、他の神社とはかなり違う雰囲気に驚きをおぼえます。
鳥居も狛犬も磁器製。それぞれに染付で精緻な絵付けが施されていて、「さすが有田!」という感じ。すべて、地元の窯元や陶磁器メーカーから奉納されたもので、400年にわたって続く産地・有田の心意気を感じさせる光景だと言えそうです。

有田と染付

僕は旅先で神社にお詣りすると、記念に御札や御朱印をもらってくるのですが、こちらの神社では、ちょっと変わった護符が目を惹きました。
それは、お宮型の白木の板に、小さな磁器の花瓶が配されたもの。
花瓶に書かれた文字には「家内安全」や「商売繁盛」等いろいろなバリエーションがあるのですが、僕が選んだのは「陶器商売繁盛」。陶業の町を守ってきた神社だけに、このようなニッチな護符もあるのですね。
窯元や問屋業は間違いなく陶器商売だけれど、うちのように東京の片隅にある小さな器屋だって陶器商売。しっかり護符を授与していただき、現在、店の壁に飾ってお祀りしています。これも有田の旅のよき思い出です。