第29回 秩父の織物 vol.1

第29回 秩父の織物 vol.1

キモノの世界にはとんと疎い僕ですが、その素材である織物に対しては常々興味を持ち続けてきました。
織物は「着る」という目的のためだけに使われるものではなく、「敷く」「拭く」「包む」「飾る」など、生活のあらゆるシーンで使われ、我々の生活に潤いを与えてくれるものだからです。
僕は、やきものをメインに器を扱う仕事をしていますが、器に使われる素材は、陶磁、木材、ガラス、金属など、基本的に硬いもの。ただ、日々の食卓がそれだけで構成されてしまうと、硬い印象になってしまいます。そんなとき、織物のような柔らかな素材を組み合わせてコーディネートすると食卓の雰囲気はぐっと変わるのではないかと思います。

第29回 秩父の織物 vol.1

そういえば、もう二十年ほど前のことになりますが、当時勤めていた百貨店の売場で、アンティークの布を扱う展示販売会がありました。
その際にキモノの古裂(こぎれ)を販売しているブースがあり、面白そうなので覗いてみると、ボカシが入ったような風合いの大きな花柄の布が目に留まりました。出店者の方に訊くと、それは「銘仙(めいせん)」と呼ばれる絹織物だということでした。
キモノからイメージされる保守的な決まり事とはまた違う、どこか奔放な雰囲気を宿す、カジュアルでモダンな色合わせに心惹かれたのを覚えています。

第29回 秩父の織物 vol.1

銘仙というのは、大正から昭和初期にかけて関東の産地で生産されるようになった平織りの絹織物。
それまでは織物の柄というと絣に見られるような小さな紋様、もしくは縞や格子などの規則的なパターンが多く、織物で大きな絵柄を表現する技術はありませんでした。
詳しくは次回お話ししますが、銘仙は、そんな技術的制約を超えるために考案された織物で、経糸のみに絵柄を染め、そのあとで白い緯糸を織り込んでゆく独特な織り方が特徴。経糸のみに絵柄が染められているため、ボカしたような独特な雰囲気に仕上がるところがミソです。

第29回 秩父の織物 vol.1

昨年、とある見本市で、この銘仙に似た「ほぐし織」という織物に出会う機会がありました。技法は銘仙とまったく同じなのだけれど、絹糸ではなく綿麻糸を使っているのだということ。
絹だと、用途はキモノや和装小物ということに限定されてしまいますが、さらりとした質感の綿麻であれば、ハンカチやひざ掛けとして使ったり、食卓にさらりと敷いてみたり、用途が生活全般に広がり、僕のようにキモノに疎い人間でも手に取りやすくなりそうです。

後日、このほぐし織(銘仙)の工場を埼玉県秩父に訪ね、その制作風景を勉強してきたので、そのあたりについてはまた次回語ってゆきたいと思います。