第5回 越前のやきもの vol.2

 前回のお話の中で紹介した野趣あふれる焼締の器はすべて、福井県越前町在住の陶芸家・土本訓寛さんの手になるもの。
 土本さんは、妻の久美子さんも陶芸家。普段は各々個人作家として活動していますが、それに加え、数年前から夫婦のコラボレーションによる作品を発表するようになりました。

土本訓寛・久美子

 越前の土の特徴である素朴さを生かしつつ、試行錯誤の末に二人が選んだ装飾技法は、「象嵌(ぞうがん)」。
 なかなか難しい名前ですが、「象って嵌める(かたどって・はめる)」と訓読みにしてみれば、少しだけイメージしやすくなるかもしれません。成型した器体の表面に様々な紋様を彫刻し、できた溝に別素材(この場合は白い化粧土)をはめ込んでいくことで絵柄を浮かび上がらせる装飾技法です。
 この手わざ自体は新たに考え出されたわけではなく、朝鮮の古陶磁などによく見られるモノ。日本では主に茶道に使う器として珍重されてきましたが、土本さん夫妻の場合は、そういったしばりから離れ、日常使いすることを前提としたさまざまなアイテムを制作しています。

土本訓寛・久美子

 モチーフは、主に植物や動物。
 日本の伝統の吉祥柄から中東風のアラベスク紋様に至るまで、どの絵柄にも彫刻や版画のようなクラフト的エッセンスが宿っていて、筆による絵付けとは一味違う無国籍感を漂わせています。

土本訓寛・久美子

 以前福井を訪問した際に、制作の様子を少しだけ見せてもらうことができました。
 まず訓寛さんがロクロで器を成型し、完全に乾かないうちに久美子さんが絵柄を彫りつけてゆきます。そのあとに泥状の化粧土を塗り、さらに不要な部分を丁寧に削り出してゆくと、先に彫った絵柄に化粧土が埋め込まれた状態で顔を覗かせます。
 その作業はとても繊細で、見ているこちらも緊張して息を止めてしまうほど。

土本訓寛・久美子

 これら手間暇のかかる工程の末に出来上がった器は、一点一点がそれぞれ趣を異にしていて、手仕事ならではの面白味(ゆらぎのようなもの)を宿しています。
 細密でありつつも大らかな二人の作品から伝わってくるのは、作る喜び。「作って楽しく、見て楽しく、さらに使って楽しい」 ― そこには器という工芸が持つ原初的な姿を見て取ることができるのではないでしょうか。