news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

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Tag "新型コロナウイルス感染症"

空気汚染物質と新型コロナウイルス感染症

従来より、RSウイルス感染症やインフルエンザなどの呼吸器感染症では、PM2.5などの空気汚染物質が気道のウイルス感染に関与していることが報告されていました。

気道で組織の炎症や損傷を引き起こす空気汚染物質に曝露していると、呼吸器感染症を引き起こすウイルスに曝露した際に、感染や発症を引き起こしやすいからです。

COVID-19についても、昨年来、このことに関する研究が実施されてきました。私自身も日本の第一波の初期で研究を実施し、その可能性を報告しています。なお、第一波で緊急事態宣言が発令されるようになってからは、行動制限の影響が大きく、その後は実態調査の研究が難しくなっています。

「新型コロナの第一波は天気が良い日に感染拡大リスクが高かった、近大が解析」
https://news.mynavi.jp/article/20200821-1239314/
Impact of climate and ambient air pollution on the epidemic growth during COVID-19 outbreak in Japan
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0013935120309397

その後、京都大学の高野先生のグループは、マウスの実験によって、PM2.5への曝露で新型コロナウイルスへ感染すいやすいことを報告しています。

「PM2.5で新型コロナ感染しやすく 京大がマウス実験」
https://www.asahi.com/articles/ASP236QYTP23PLBJ003.html
Exposure to particulate matter upregulates ACE2 and TMPRSS2 expression in the murine lung
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0013935121000165#!

他にも、COVID-19のパンデミック以前に粒子状物質の濃度が高かった地域では、COVID-19の感染率が高いとする報告があり(Travaglio et al. 2021)、気道で組織の炎症や損傷を生じる空気汚染物質への曝露は、潜在的にCOVID-19の感染や発症を引き起こしやすいのではないかと考えられています。

ただ実際には、大気汚染や気象などの外部環境要因よりも、人の行動の影響(マスク着用、行動制限)の方が大きいため、感染者数の変化は、人の行動の影響を大きく受けています。

しかしながら、感染リスクを増大するリスク要因をできる限り少なくすることも重要ですので、引き続き研究を進めていく必要があると考えています。

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新型コロナウイルス感染症への感染と予防に関するWHOの情報とその他関連情報

Transmission of SARS-CoV-2: implications for infection prevention
precautions, Scientific Brief
https://www.who.int/publications/i/item/modes-of-transmission-of-virus-causing-covid-19-implications-for-ipc-precaution-recommendations

1.最近のエビデンスに基づく感染経路に関する要点
・どのような場所で、いつ、どのようにして感染が拡大するかを理解することが、感染拡大を防止するための有効な公衆衛生対策や感染予防措置を開発するうえで極めて重要。
・新型コロナウイルスに対する人から人への感染は、主には、唾液や気道の分泌物などのウイルスを含む分泌物を排出(咳、くしゃみ、会話、歌唱)する感染者との直接的な接触、間接的な接触、あるいは近距離接近(近接)で生じる。
・新型コロナウイルスの空気感染は、医療における特殊な手技(気管挿管・抜管、気道吸引、NPPV装着、気管切開、心肺蘇生、用手換気、気管支鏡検査、ネブライザー療法、誘発採痰等)を行う際に発生する飛沫核(エアロゾルとも呼ばれる)を通じて医療機関で生じることがある。室内で人が密集した空間との関連を報告するいくつかの集団感染事例(聖歌隊の練習、レストラン、フィトネスクラブ)において、飛沫感染と混じり合って空気感染(飛沫核感染)が生じた可能性が示唆されている。
・感染者から排出される飛沫は、周囲の物体に付着し、感染の媒介物(汚染された表面)となる。新型コロナウイルスによるこのような環境汚染の報告は多数あり、汚染された表面を手で触り、手を消毒する前に、その手で目・鼻・口を触ることで人から人へ感染する可能性は高い。(→いわゆる接触感染)
・現在の知見に基づくと、新型コロナウイルス感染症の人から人への伝播は、長い時間人と人が近接した場合、主には症状が出現している感染者から生じているが、感染者の症状が出現する前にも生じることがある。また、症状が出現しない感染者からウイルスが伝播することもあるが、どの程度このことが生じるのかは未だに不明であり、今後の研究が必要。
・さまざまな感染経路のうち、どの感染経路が重要であるかを解明する質の高い研究が早急に必要(特殊な医療手技によるエアロゾル発生がない状況における空気感染の役割、人から人への感染が生じるウイルスの曝露量、一人から多人数へ感染した事例(スーパースプレッダー)における状況とリスク要因、無症状者による感染や症状出現前に感染が生じている規模)。

2.今後の予防策について
WHOは、これまでの知見から、新型コロナウイルスの主な感染経路は接触感染と飛沫感染であると考えており、ある状況下(例えば、エアロゾルを発生する特殊な医療手技を用いる医療現場、人が密集かつ換気の悪い室内空間でも発生する可能性を秘めている)において、空気感染が起こるかもしれないと考えている。このような事例における研究を早急に行う必要があり、WHOは今後の予防策として以下の項目をあげている。
・感染の疑いのある人をできる限り迅速にとらえ、検査を行い、感染者全てを適切な施設に隔離する。
・感染者と濃厚接触した全ての人(濃厚接触者)を確認して隔離し、感染してケアが必要であれば隔離できるように、症状が出現した濃厚接触者を検査する。
・特殊な状況(例えば、地域感染が生じている公共の場、社会的距離の確保などの他の予防策がとれない場所)では繊維製マスクを着用する。
・新型コロナウイルス感染症の患者やその疑いのある人をケアする医療従事者においては、接触と飛沫に対する予防措置をとる。また、特殊な医療手技を用いてエアロゾルの発生がある場合、医療従事者は空気感染に対する予防措置をとる。
・全ての臨床現場で働く医療従事者や介護者は全ての作業中継続的に医療用マスクを使用する。
・どのような時でも、手指の消毒を頻繁に実施し、できる限り他人との社会的距離を確保し、咳エチケットを実施する。また、人が密集した場所、人と人が近接する場所、換気の悪い閉鎖空間を避ける。また、人と人が接近して密集した場所では他人を守るために繊維製マスクを着用する。また、全ての閉鎖空間では良好な換気を確保し、環境の清浄と消毒を適切に実施する。

その他の関連情報として、日本における新型コロナウイルス感染症の発生状況を解析した私の研究論文が2020年8月20日にプレスリリースされましたので、紹介いたします。

「新型コロナウイルスの日本の第一波を地域ごとに解析:天気の良い日の人々の行動や大気汚染が感染に影響する可能性」
近畿大学医学部 東 賢一
https://newscast.jp/news/4075855

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新型コロナウイルス感染症に関するWHOの日本語情報

日本では、首相官邸や厚生労働省等の関係省庁が、各サイトで情報を公開しています。そこで、WHOが日本語で情報公開しているサイトを今月のトピックでは紹介します。

WHOの研究機関としてWHO神戸センターが神戸市のポートイランド内にあります。WHO神戸センターが、日本語での情報公開を行っています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)WHO公式情報特設ページ
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/news/COVID19_specialpage

このうち一般向けの情報は、以下のサイトにあります。

新型コロナウイルス(COVID-19)一般向け情報提供
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/covid/covid-public

内容としては、以下の情報がリーフレットなどで公開されています。多くの情報が多角的な視点から日本語で公開されていますので、ご参考いただければと思います。

・家庭用の布マスクの安全な着用方法
・新しい生活様式へのアドバイス
・迷信や不安に対するアドバイス
・親として子どものためにできること
・布マスクの使い方
・COVID-19蔓延防止に向けた科学の進歩と私たちの役割
・物理的距離のとり方
・食品と買い物についてのアドバイス
・職場や自宅で勤務中にできるCOVID-19予防
・妊娠中・出産後の方へのアドバイス
・メンタルヘルスとCOVID-19
・医療用マスクの安全な使い方
・COVID-19アウトブレイク中の移動
・お互いの安全を図りながらつながりを保つことはひとりひとりの責任です
・COVID-19 事実を知りましょう
・たばことCOVID-19
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とその原因となるウイルスの命名について
・SARS-CoV-2の起源
・生きた動物または動物製品を扱う市場における動物からヒトへの新興病原体の伝播のリスクを減少させるためのWHOによる推奨事
・低リスクは無リスクではない
・大規模集会とCOVID-19に関するQ&A
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するQ&A
・職場でのCOVID-19感染予防対策
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する国連事務総長事務総長ビデオメッセージ

・コロナウイルスの拡散を防ぐ7つのポイント
・コロナウイルスに備えよう
・流行下におけるストレス対処
・職場でCOVID-19に備える
・COVID-19からどのように自分を守るか

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WHO欧州から夏の暑さ対策に関する勧告―新型コロナウイルス感染症とともに―

WHO欧州事務局が勧告している夏の暑さ対策についてお伝えします。これは新型コロナウイルス感染症にも関係しており、暑さが長期間継続すると、感染症の拡大(医療機関や医療従事者へのさらなる負荷増に起因してなど)に関与するのではないかと懸念されています。また、感染症の予防や治癒には暑さは関係ないので誤解がないようにと警告しています。欧州の気候は日本とよく似ていますが、多少文化の違いなどで日本にそぐわない勧告もありますので、そのような勧告は除外しています。

夏場の暑い時期について:
・暑いところには行かない
1日の中で最も暑い時間帯は外出を避けて激しい運動を控えること。日陰で過ごし、駐車場に駐車するときは車の中に子供やペットを置き去りにしないこと。人と人の距離を1m以上あけるように配慮しながら涼しいとところで数時間過ごすこと。

・家を涼しくする
夜風を利用して家を冷やし、ブラインドやシャッターを利用して家の中に熱が入ってこないようにすること。電気機器(熱源となる)をできる限り使用しないようにすること。

・体を冷やして水分補給
軽くてゆったりした衣類や寝具を使用する、シャワーや入浴時は涼しくすること。定期的に水分補給を行い、糖分、アルコール飲料、カフェイン含有飲料を避けること。

・新型コロナウイルス感染症流行時は涼しさを保つこと(暑さを避けること)
日光を浴びると新型コロナウイルス感染症を予防あるいは治癒する証拠はないので、日光を浴びることや25℃以上の温度を避けること。これらは日焼けや熱ばく露に関係する疾病のリスクを増加させる。晴れた日や暑い日であっても、新型コロナウイルスへ感染するリスクはあるので、手指の消毒、咳エチケット、顔を手で触らないよう感染予防策を徹底すること。

新型コロナウイルス感染症とともに長くて暑い夏に対して準備すること
Preparing for a long, hot summer with COVID-19
https://www.euro.who.int/en/health-topics/environment-and-health/pages/news/news/2020/5/preparing-for-a-long,-hot-summer-with-covid-19

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