• side01
  • side02
  • 2
  • 112
  • title1

敷地・街・隣家の関係

外廻りの写真と基本の図面は既に見てもらっていますので、もうお解りと思いますが、道との境に硬い仕切り(塀)がありません。植物で結界をつくって、柔らかく街と繋げています。

  • 外構図(図版提供:田中敏溥建築設計事務所)

    外構図(図版提供:田中敏溥建築設計事務所)

  • アイポイントの山モミジの下にアベリアの低い生

    アイポイントの山モミジの下にアベリアの低い生垣

この敷地の建蔽率は60%ですから、建築面積は約47㎡まで建てられますが、国立の家の1階床面積約36㎡は、敷地に対して特別に小さく計画された家ではありません。敷地面積は約78㎡ですから、配置図を見れば道や隣地との境に余裕があるとは云えない状態が判ります。が、家族が豊かに暮らすにはどうしてもある程度の広さも必要ですから、むやみに家を小さくつくればよいともいえません。だから、どうしても道と隣家との境を気にかけざるを得ませんから、敷地・街・隣家の関係を田中さん流にいえば「仲良く」する必要がでてきます。

再度『向こう三軒両隣り』からの引用ですが、「街がやさしく見えて、人が心地よくくらせるかどうかは、2つの境界のつくりが街の風景や、道を歩く人や、隣りの家に、どれだけ気配りされているかによって決まります。」とあります。それは「気配り」が設計の基本だと教えています。敷地をブロック塀などでキチンと区切って閉鎖してしまう家や、逆に家が街に直接顔を出している風景を見るたびに「こんな街に住みたくないなあー」と思いますよね。

  • 客間の開口部、ガラリ戸と襖戸が仕込まれている。

    客間の開口部、ガラリ戸と襖戸が仕込まれている。

  • ガラリ戸と襖

    ガラリ戸と襖

  • 寝室の窓(図提供/田中敏溥建築設計事務所)

    寝室の窓(図提供/田中敏溥建築設計事務所)

南側のヒイラギモクセイの生垣が眼隠しと防犯を兼ねて選択されていますが、生垣の高さと1階窓の大きさ・位置バランスは検討が必要です。南側の接道する1階の寝室と客間の開口部を見ると、道を歩く人の視線は切りながら、室内の閉鎖感を和らげるのに生垣の緑を上手に活かしています。特に、写真を見ると生垣は必需品だと納得ですね。それに敷地の隅の部分にシンボルツリーとして山モミジを植えて、街に緑の豊かさと季節感も提供しているのです。ただ、この開口部にはガラリ戸と襖が室内側に建て込まれ、プライバシーを守りながら、通風を得る工夫があります。特に1階の開口部には外との関係を調整するディテールが必要なのですね。これも肌理の細かい「気配り」です。

それにしても、「仲良く」や「気配り」が基本と聞くと納得はするものの、もっと自由にアイデアを駆使した新住宅を提案したほうが、ちょっと力づくですが街を変貌させる効果はあるんじゃないかと感じる設計者も多いでしょうね。新しい素材、技術、構想の採用で住宅の可能性を拡げたいのも設計者の性分、基本の訓練を積むどころじゃない。これも当然かもしれません。ただ、基本は自由な提案の制約ではなく、変貌のジャンプ台・発明の母になる近道だと、私の思い込みかもしれませんが、信じています。だから、ジックリ進むしかないのだと。しかし、一番信じ難いものは私自身ですからね、鮮やかに豹変していたりして……。

次回からの東側の2階テラスに覆われた車寄せとアプローチ、玄関廻りは、ちょっと型を破っている部分を見せられると思います。