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ごあいさつ

とくに順序は決めず、ゆっくりと、だんだんと、あれもこれも、今までに訪れた住宅や設計者の印象や、職人のこだわり、素材の話、気付かないようだが知ったら役に立つかもしれない工夫とディテール、余計なおせっかいに近い話など、住宅にかかわるさまざまな話を始めようと思います。しかし、どれだけ続けられるかは、解りませんがまずは出発しましょう。

ところで「アンタはだれ」と、話をするのは何処の誰かとお思いでしょうから簡単ですが自己紹介をします。
『住宅建築』という住宅雑誌が創刊されるのは1975年5月、創刊時の編集長は「風土社」とも縁が深い平良敬一さんです。その『住宅建築』に創刊時から30年ほど編集に参加してきました。だから、建築設計の現場で体得した知識を話せるような実践経験はありません。

なので、編集作業の中で住宅を訪れ設計者と出会い、また大工・左官・建具職人、林業者などから見聞きし、教えられた経験を頼りにこれからの話を進めてゆきます。

向こう三軒両隣

始めは国立市に建つ田中敏溥自邸を探訪します。その前に、ちょっとおさらいです。
まず、田中敏溥さんを知っていますか。『チルチンびと』の読者ならご存知だとは思いますが、簡単に経歴を述べておきましょう。

田中さんは1944年に新潟県村上市に生まれ、高校卒業後東京に出て、建築家を目指します。その中で東京芸術大学の存在を知り入学を果たし、大学院修了後、茂木計一郎さんの設計事務所で環境計画と建築設計を学びます。そして1977年に独立してご自身の設計事務所を設立した建築家です。

設計者を建築家と紹介するには、なかなか微妙で戸惑いがあることが多いのですが、田中さんを紹介するのには適切だと思っています。ただ、適切だと思うには「建築家とは何か」という説明をしなければいけませんが、これは後回し。おいおい説明して行ければと思っていますので、今は私の個人的な意見としておきましょう。

もっと田中さんを知りたい方は、もし機会があったら、この著作本を読んでください。
田中さん手彫りの木版画で主に構成された素敵な本『向こう三軒両隣り』(くうねるところにすむところ⑫子どもたちに伝えたい家の本/インデックス・コミュニケーションズ刊)です。

表紙本文

田中さんの住宅設計に対する姿勢がよく現されていますから、参考のためあとがきの一部を書き出してみましょう。

「自分だけでなく、みんなのことも考えながら
一軒だけでなく、街並みのことも考えながら
今日だけでなく、未来のことも考えながら、
家のことを考える」

とあります。

当り前のことだと思うのですが、ところが、今様の設計者が提案する《家という作品》の行く末は、他者との差異を競うことに価値を置きがちですから、どうしても「みんな」や「街並み」と対立してしまい、それぞれと折り合いが悪くなるのが常と考えています。これでは互いの会話は生まれ難いでしょう。彼らにとって《家という作品》は当り前の家ではいけないのです。勿論、現状の混乱した街並みが良いといえませんから、どのような手立てを用いて「未来」に「明日の街」を創ってゆくのかを考えなければいけませんね。

自分の家と、隣り近所の家、向こう三軒両隣りのさわやかなくらしと美しい街をつくるためのお話です。 表扉のスケッチを見てください。まるで家どうしが集まって談笑をしているようで、この本の視点を、一枚の絵で現しているかのようです。そうです、自分たちの未来は自分たちで決めようとしています。こんな絵が描けてしまうんですから、ちょっと羨ましく思いますよ。