自然素材でつくり上げた心地よい浴室。風呂庭を眺めながらゆったりと入浴が楽しめる。(設計/大野正博)

「つくるお風呂」のすすめ

日々の疲れを癒し、心身をリフレッシュしてくれるお風呂は、私たち日本人にとって無くてはならない存在です。わが家で温泉気分を楽しみたいと思う方も少なくないでしょう。ところが、浴室には防水、換気、安全性、使い勝手などさまざまな配慮が必要とされることから、つくり手側もクレームの少ないオールインワンのユニットバスをおすすめするケースが多いのも事実です。

けれども、せっかく家を建てるなら、「設備」を購入するのではなく、自然素材を用いたり、庭を上手に取り込んだりと、いろいろこだわって楽しい浴室をつくりたいもの。そうすれば、日々の入浴がより豊かなものになるはずです。ここでは、「買うお風呂」ではなく「つくるお風呂」に必要なノウハウをご紹介しましょう。

「浴室」づくり・8つのポイント(前編)

心地よいお風呂をつくるために配慮したいポイントを8つにまとめました。浴室を設計・計画する際にお役立てください。

1:窓の役割りを知る
 風と光を採り込み、外からの視線を切りつつも景色を楽しむ……浴室の窓は、こうありたいもの。ペアガラスなど窓の性能が高まった今日、窓の大きさは周辺環境によって決めるとよいでしょう。大自然の中の家なら大きな窓を、住宅密集地の家で小さな風呂庭を設けた程度なら、小さめな窓で見たいものだけが見えるようにします。浴槽に浸かった状態で窓の外が見えるよう、窓は浴槽のすぐ上に設けるとよいでしょう。同時に、塀や庇で近隣からの目線を切ることも重要です。

風呂庭(バスコート)は、窓から90㎝程度の奥行きがあれば十分です。植物を照明で照らし、浴室内部を薄暗くすると、いい雰囲気が楽しめます。そのスペースが取れない場合は、窓の外に台を設けて鉢植えを置いてもいいでしょう。

外からの視線を切る 1階からの目線は目隠し塀で、2階からの視線はルーバー状の庇でカット。ルーバー状の庇は、視線を遮りつつも雨や雪が降る様子を楽しむことができる。

 

2:広さを出す工夫

 一般的な住まいであれば、浴室は1坪で十分な広さが感じられます。ただし、これは隣接する脱衣室と浴室をガラスで仕切ることが前提。透明な仕切りによって目線が通ることで圧迫感がなくなり、広く感じるのです。また、浴室の壁が板張りならば脱衣室も板張りにするなど、壁の仕上げを統一することによって、さらに目線を伸ばす効果が生まれます。入浴に援助が必要だったり、複数でにぎやかに入浴したい場合は、1・25坪程度の広さを確保すれば十分でしょう。

浴室と洗面脱衣室を透明なガラスで仕切り、壁や天井の仕上げを統一することで開放的な雰囲気が生まれた浴室。(設計/大野正博)

 

3:素材の性能を生かす
 壁や天井を板張りにした浴室は、風合いの良さはもちろん、換気に留意すればカビの心配もなく掃除も楽です。また、木材は内部に空気を含むため結露しにくく、吸放湿性能によって浴室内を調湿してくれます。板には何も塗らないか、塗るなら木材の呼吸を損なわない浸透性の塗料を選びます。木目を浮き立たせ、汚れをしみ込みにくくしてくれます。ペンキなどの造膜性塗料は、塗膜の裏に入り込んだ水分がカビや傷みの原因になるので厳禁です。

床に石を張るときは、石の表面をざらざらに加工したものがおすすめです。つるつるに磨き上げたものは滑りやすく事故の原因になります。