地域型宮大工工務店と若き建築家の挑戦

広島県東広島市 注文住宅 木ごころ 坂田工務店
中国・四国

地域型宮大工工務店と
若き建築家の挑戦

地域の社寺建築を担ってきた宮大工工務店は、
少子高齢化による氏子・檀家の減少、地域経済の不振の中、
その存続と技術の継承が危ぶまれている。
生き残りをかけた宮大工と建築家のコラボレーションを取材した。

広島県東広島市 坂田工務店 モデルハウス
設計=株式会社連合設計社 市谷建築事務所 施工=木ごころ ㈱坂田工務店 写真=相原 功

広島県東広島市に、昨年、坂田工務店のモデルハウスが誕生した。坂田工務店は、昭和21年に先々代の坂田竜一氏が創業し、先代の坂田昭三会長、髙原良彦現社長と、三代続く宮大工工務店だ。大工は11名、営業マンも現場監督もいない。

厳しい現実の中「このままではいけん。なんとか大工技術を継承し、生き残る道を探さなくては……」。そう考えた髙原社長は、モデルハウスを建てるにあたり、『チルチンびと「地域主義工務店」の会』に入会して出会った、連合設計社市谷建築事務所(以下、連合設計社)の戎居連太社長に相談した。

というのは、入会後、連合設計社の吉田桂二氏の作品を見学し著書を読むうち、「建築は地域の大工・職人とつくる」という明解な思想に心を打たれたからだ。

吉田氏は、東京美術学校(現・東京藝術大学)で建築家・吉田五十八に師事。卒業後は、池辺陽の事務所で設計活動後、連合設計社の創設に参加。建築史家・伊藤ていじ氏に出会い、共に全国の古民家を調査して歩いた人だ。

連合設計社は、木の建築を知りつくした設計事務所だ。宮大工工務店を五分と五分で受け入れてくれるのはここだと、感じたという。

しかし、伝統技術があっても、伝統的な間取りの家しか発想できなければ、若い世代の生活を「カタチ」にして提供できない。そこで、連合設計社の30代の建築家たちと髙原社長の熱心な議論が始まった。

連合設計社の越野俊さんは、筑波大学で伝統的住宅を研究する安藤邦廣教授に師事して古民家再生の経験を積み、日本の木組みを知りつくす稀少な若手建築家だ。越野さんは西条市・東広島市の風土を読み解き、「西条の溜め池文化をヒントに、中庭に池をつくり、盆地気候の暑い夏に涼風を採り入れる」ことを提案した。

また、同社の仙道香理さんは「暮らしをつくる家具や食器・小物と音楽を考えたシンプルな空間」を提案。

髙原社長は、知人が開発した「観賞魚用水浄化システムを採り入れ、池をビオトープに」と、それぞれ知恵を出し合った。

お客さんが帰らない
モデルハウス

こうして生まれたモデルハウスには、日々たくさんの見学者が訪れる。「お客さんがなかなか帰らないんです」と笑う髙原社長。来場者は、3時間は居てあちらこちらに座り、へーっと、空間や開口部が切り取る景色を堪能してから、やっと帰るという。この家は、生活の時間の質を豊かにしてくれるようだ。

宮大工は、多機能工

坂田工務店には現場監督がいない。大工は全員正社員。棟梁が図面を精読し、木拾い・木取りだけでなく、納まりの工夫をし、左官や建具などの職人を指示し、コントロールタワーとして現場をトータルに管理している。さらには、棚などの家具作りや、塗装までこなしてしまう。

一方、「現場で大工の道具をまたぐな!」と、吉田氏に厳しく育てられ、「現場で棟梁に教わって育ってきた」という連合設計社の三人。「これ見よがしなデザインではなく、生活の下地になるような空間をつくる」ことを常に考えて、設計に取り組んでいると話す。

「この住宅では、ダイニングとリビングを階段でつなぎながら仕切る、勾配天井から水平に外に突き出るライン、室内建具は垂れ壁をなくし、欄間ガラスで採光する設計がポイントでした。このデザインは、レベルの高い大工技術だからこそ成立します」と越野さん。

連合設計社とのコラボレーションで、「社員大工が変わりました」と、高原社長はいう。竣工式に足場職人を含め全職人を招いたところ、「感動しました」「誇りに思う」「仕事が生きがいになりました」などという声が、次々に挙がったのだという。

「“安かろう・悪かろう”の家はつくりたくない。大工・職人が自信を持って、お施主さんに引き渡せる家を、つくり続けていきたいですね」と、髙原社長は語った。

 

 

所在地 広島県東広島市西条町西条147-10
家族構成 夫婦+子ども2人(想定)
面積 敷地 188.57㎡
延床 129.90㎡(1階86.02㎡ 2階43.88㎡)
竣工 2010年11月(工期 2010年5月~11月)
設計 ㈱連合設計社市谷建築事務所(戎居連太、越野俊、仙道香理)
施工 木ごころ ㈱坂田工務店
構造形式 木造在来軸組工法
主な外部仕上げ 屋根=ガルバリウム鋼板
軒裏=杉
外壁=スーパー白洲そとん壁(一部杉板張り)
主な内部仕上げ 天井=杉リブ板張り(厚9.5mm)
壁=中霧島壁ビオセラ塗り
床=杉無垢フローリング(厚30mm)、畳(厚60mm)

 

チルチンびと66号掲載|電子書籍でご覧いただけます

 

木ごころ 株式会社坂田工務店
〒739-0151 広島県東広島市八本松町原9240-2
 
従来の日本家屋をベースに、住みやすさに重きを置いた、
風景に馴染む家造りにも取り組んでいます。
当社の強みは設計から施工、アフターメンテナンスまで全て自社で行えること。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、
理想の住まいを創るお手伝いをさせていただきます。

 

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。

Optionally add an image (JPEG only)