一流の職人技を結集 築200年の古民家が蘇る

神奈川県 注文住宅 天音堂 リフォームラボ㈱
神奈川県

一流の職人技を結集
築200年の古民家が蘇る

横浜市の住宅街にふと現れる、堂々たる屋敷構え。
長い年月を経て廃屋と見紛うような状態になってしまっていた古民家は、
多くの職人の手によって鮮やかに息を吹き返した。
住み継ぎたいという夫妻の思いをしっかりと受け取った設計者、職人たちの
情熱が込められたY邸を訪ねた。

神奈川県 注文住宅 天音堂 リフォームラボ Y邸
設計=大沢 匠 施工=天音堂 リフォームラボ㈱ 写真=西川公朗 文=内田珠己

入り組んだ細い道を進むと見えてくる風格漂う武家屋敷風の門。その門からちらりとのぞく入母屋屋根と鬼瓦からは、威厳がありながらも周囲の環境とすっと馴染むような大らかな雰囲気が伝わってくる。住宅街とは思えないほど豊かな緑に囲まれ、落ち着いた印象をより強くしている。Y邸を訪れたのは、勢いよく茂る新緑が空の青に映える、気持ちのよい晴れの日だった。出迎えてくれたのは、笑顔が素敵でやわらかな物腰のYさん夫妻。玄関からではなくガラス戸を開け放った縁側からというところが、おばあちゃんの家に遊びに来たかのような懐かしさと心地よさを与えてくれる。先に到着していた設計者や職人なども縁側に腰掛け、思い出話をするようにしてこの家についての語らいが始まった。

「できるだけ
今の形のまま残せませんか」

遡ること20数年前。この家にはご主人のおじいさんが娘と暮らしていたが、その後は長いこと空き家になっていたという。ご主人はもともとこの土地の生まれだが、仕事の都合で離れていたところ、一人で暮らす母のことを心配して奥さんとともに戻ることに。それと同時に、すっかり荒れ果ててしまったこの家のことが気がかりで仕方なかった。というのも、正確な築年数は不明ながらも、残されている資料などから200年ほどは経っていると推測される古民家。先祖代々、この場所で大切に住み継がれてきた家をあっさりと建て替えたり改修したりはできないと考えていた。「できることならば元の雰囲気を保ちながら自分たちが住み継ぎたいと思ったんです」とご主人。穏やかな語り口のなかにも、一本芯が通ったような意志の強さが感じられる。

塗装の剥がれたトタン屋根、ところどころ欠けた板張りの外壁。長年手を入れずにいたため、内部も相当に傷んでいた。それらをしっかりと直してくれるような人を、とたどり着いたのが古民家再生をいくつも手がけてきたO設計室の大沢匠さんだった。大沢さんは現地調査を行い、屋根の葺き替えや耐震・断熱補強、間取りの一部変更などを計画。各工事に必要な職人、それもこういった古民家に対応できるような腕利きの人らを集め、工事に取りかかった。

数十年、数百年前の
職人仕事に思いを馳せて

「『屋根を今の形のまま残せませんか』というYさんの一言目が強く印象に残っています」と大沢さんは述懐する。傷んだ屋根は下地の骨組を修復して葺き替え、屋号と家紋が入った鬼瓦や銅板の箱棟も形をそのままに復元。板金工の小林繁さんは「昔の職人の仕事を見られるのは、同じ職人として幸せなこと。これもめぐりあい」と話す。外壁は板の欠けた部分を同じような木目の材で足し、漆喰を塗り直した。建具も修復してそのまま使用している。

内部も表側3間は畳の張り替えのみで、間取りを大きく変えたのはキッチンや浴室といった水回り。元の台所部分を増築し、茶の間との仕切りを取り払ったことで、広々と使い勝手がよくなった。野趣あふれる曲がり梁がすっきりとした空間を引き締めている。一角に設けられたL字のベンチと囲炉裏付きのテーブルはいかにも居心地がよさそうで、案の定ご主人の定位置だとか。浴室は元々あった位置に戻した形で、浴槽は和船と同じ船釘を使った檜の箱風呂。このような仕事をできる職人も数えるほどになってしまったという。

天音堂代表の上利智子さんは「ご先祖様やこの家を大切にされているご夫妻の思いが職人たちの心にも届いたんでしょうね」と話す。彼らは時を刻んできた材や昔の職人と会話するようにして手を動かしたのだろうか。工事は丸一年かけてじっくりとていねいに行われた。「改修というよりは、当初の状態に“復元”する仕事でした。経験したことのない復元工事に携われたことに、職人として感謝しかありません」と同社棟梁の伊東功さんが振り返る。

見事に生まれ変わった家では、以前とはまったく異なる家しごと、庭しごとが待っていたという夫妻。苦笑いを浮かべながらも、目には輝きが満ちている。これまでの住まい手、携わった職人の思いをついで、この家はこれからも住み継がれていくのだろう。

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