蔵の改装

日本の原生林の大木は伐採され尽くしてしまった。伊勢神宮の式年遷宮では台湾の山奥まで大木を探しにゆく。さみしい現実だ。
北米の原生林には大木が残っている。東京湾から陸揚げされた直径2メートルほどのレッドシダーの原木を見たときには、その巨大さに圧倒されるばかりだった。それが製材されて刻まれる。大木の一番おいしそうなところは巨大な豆腐を引き延ばしたような形の木の塊に仕立てられる。マグロの赤身のような色合いと美しい木目の塊。「サク」と呼ばれていた。そのサクと出合ったのは木場の材木問屋の倉庫。厚さ15㎝、巾70㎝、長さ4mくらいの大さの美しい塊。マグロなどをさばいて刺身の切り身の前段階の塊にしたものが寿司屋などでサクと称されるから、製材所のサクの呼び名もそこから来たものと推測する。
見た目に赤いレッドシダーの”レッド”は赤身のことだと、倉庫のサクをみて納得がいった。本物の刺身は白身魚もおいしいが、木は赤身の方が圧倒的においしいと思う。赤身の木にはやっぱり赤ワインかな。
ところでレッドシダーはなぜ赤いのだろう。ソバの茎が赤いのは神さまを背負って冷たい川を渡ったせいだがレッドシダーはそんなことしなかった。なのになぜ赤い?

干割れ防止のため倉庫で半年間、ゆっくりと寝かされたサクは秋田に送られて天井板に加工されるそうだ。透きとおるほどに薄く割かれた経木は、合板に貼られて例の巾広の秋田杉天井と呼ばれる建材になる。大径木の秋田杉はすでにない。木目の似ているレッドシダーがその代用品というわけだ。ひとつのサクから一体どれくらいの秋田杉”風”天井材がつくられるのだろうか。
レッドシダーという名前は比較的新しいもので以前は米杉と呼ばれていた。杉のような木目のアメリカの木だから「米杉」なのだろう。なるほどそこから秋田杉につながるわけだ。秋田杉はそれほど赤くないと思うのだが・・・
以前は原木のまま輸入されていたのだが、現在は原生林が伐採禁止とも聞いている。レッドシダーのサクはもう手に入らないのだろうか。

木場でレッドシダーのサクと出会ったのには訳がある。
埼玉の地主さんから蔵を改造して書斎として使いたいという依頼があった。蔵の様子を把握した後、内装につかう造作材や家具の材料を、材木の本場の木場にさがしにいった。以前から付き合いのある材木問屋に事前に連絡を入れ、いざ出向いてみたら一目惚れするようなサクが待っていたという次第。サクをいくつも並べて色合いや木目をチェック。欲しいサクを指定した。河岸で買い付けするような気分だった。
サクを割いて厚みをととのえ、階段の段板と側桁、それに書斎のデスクと飾り棚の天板など、どれをどこにどう使うかを棟梁を交えてあらためて選び直した。使い道がはっきりしたもの以外は手摺や枠材として使われた。
耐候性に着目してレッドシダーを使いはじめたのだが、まさか内装全般に使用する機会がくるとは思ってもみなかった。

床・壁・天井、階段とデスク etc. すべてレッドシダーの真っ赤な書斎。単一の素材でまとめられた空間は、空気まで素材の色に染まっていた。

 

蔵の改装

蔵の改装

 

撮影:岡本寛治