中庭

凹凸もなく、ただ四角いだけの家なら工事費は節約できる。しかし、そこからは決して中庭は生まれない。その意味では中庭はぜいたくなつくりなのかもしれない。

家をL字に曲げると中庭風のコーナーができる。民家でいう「曲がり屋」である。
L字のコーナーは機能的にも雰囲気的にも豊かな空間となる。風が吹きぬけないから冬は心地よい陽だまりとなり、夏は逆に風をあつめて家の風通しをよくする。
ただでさえ快適なコーナーなのだから、そこがウッドデッキになるのは自然のなりゆきといえる。

L字の部屋から斜めに外をながめるとコーナーを介して向こうの部屋まで視線が通る。その結果、家は広く大きく感じられることとなる。ウッドデッキが視界に入れば、そこを渡って近道もしたくなる。その結果、あらたな動線が生まれて家はますます広くなる。
L字に曲げるだけでこれだけ空間がゆたかになるなら、もっと曲げたらどうなるかやってみたくなるのが心情というものだ。曲がりをくり返せば桂離宮のような雁行の形になる。広い土地でないとつくれないから、雁行スタイルはぜいたくの極みというべきか。

L字と逆転したL字をつなげるとコの字になる。それまでの快適コーナーは囲いへと発展し、コーナーによって生じていた比較的単純な空間とは別の、まったく新しい複雑な空間が発生する。
部屋同士が向かい合うことで生じる緊張感とともに、つながりとか絆のようなものも生じてくる。

写真の家は二所帯住宅で、中庭の左側がおばあちゃんの部屋。右側が子所帯の食堂となっている。向き合った部屋どうしの視線をやわらげるため、食堂側に設けたデッキの向こうに透きのある植栽を施してある。天気が良ければデッキで食事もする。空の下でピクニック気分だ。
朝、子供たちが食堂に集まると向かいのおばあちゃんと「おはよ~!」と元気にやりとりする。それを合図におばあちゃんは濡れ縁からデッキを伝って空を見上げ、天気を確かめながら食堂にやってくる。朝の団らんがおわると、こんどは廊下伝いにおばあちゃんは自分の部屋にかえってゆく・・・

人と人との距離を適度に調整してくれるのも、中庭の役割の一つといえるだろう。

中庭

PHOTO 撮影者:不明