サスティナブルなものづくり

2022年が始まりました。前回の続きのような話になりますが、SDGs達成の目標年である2030年まで、もうあと8年と思うと、なんだか短く感じますね。前回お伝えしたプロジェクトをきっかけに、環境問題に関する本もいくつか読みましたが、どの本にも共通するのは、自然環境の改善が喫緊の課題であること、それに経済成長とどのように両立させるかというのが難題であることが書かれています。

まだ収束しないコロナ禍や、度重なる集中豪雨など異常気象のニュースを見ると、環境問題の解決に残された時間は少なく感じます。ものづくりで経済に関わっている者にとっては、環境問題は避けては通れない課題です。「持続可能なものづくり」のためには一体どういう方法があるのか、真剣に考えなくてはいけない時代になってきていることをひしひしと感じています。

1973年に公開された『ソイレント・グリーン』というアメリカのSF映画があります。その映画の舞台が、ちょうど今年2022年なのですが、50年近く前の作品が見事に現代を風刺しているから驚きです。人口が増えすぎた2022年のニューヨークが舞台で、そこには自然は出てきません。廃墟のような建物の中で、ソイレントグリーンという科学的に作られた板のような食品を食べて暮らす人々。富裕層のみが本物の自然に作られた食品を食べることができるのです。久しく見たことがなかった本物の苺や牛肉を見て、驚く庶民の姿が描かれます。スクリーンの中のみに映し出される美しい自然の情景に涙を流す姿は、何年後かの私たちなのかもしれません。

こんな悲しい世界が現実になる前に、私たちにできることは何なのでしょうか。『サステイナブルなものづくり』の著者ウィリアム・マクダナー氏とマイケル・ブラウンガート氏は数十年も前から、ものづくりの設計の段階から自然に還る素材か、または再利用できる素材のみを使用してデザインすることで、ゴミを出さないものづくりを提唱し、実践しています。それは、従来の使用後にゴミとなる、いわば「ゆりかごから墓場まで」のプロセスとは異なり、使用後もまた新たな価値をもって生まれ変わることから「ゆりかごからゆりかごへ(cradle to cradle)」と呼ばれています。見た目の美しさやコスト、革新性など、デザインをする上で必要な尺度はたくさんありますが、そこに環境への配慮や持続可能性という視点を一つ付け加えるだけで、デザインの仕方は変わってきて、全てのものづくりに携わる人がそうすべきだと、彼らは訴えているのです。

『サステイナブルなものづくりーゆりかごからゆりかごへ』はこれからのプロダクトデザインに必携の書。
『サステイナブルなものづくりーゆりかごからゆりかごへ』はこれからのプロダクトデザインに必携の書。

とはいえ、それを実践するのはなかなか難しく、製品のパッケージひとつとっても、ビニールやプラスチック素材がどこかには使用されているのが現状です。モビールも、紙と糸だけでできているとはいえ、糸に微量に含まれるポリエステルや、ボンドに含まれる成分が、焼却された際にどのような影響が出るかや、体に及ぼす影響についてまでは考慮できていません。だからといって、それをそのままにしておいては、今後ものづくりを続けられないでしょう。できることから一つずつ解消していき、持続可能で環境にやさしいものづくりをしていくべきだと思います。

製品パッケージに義務づけられているリサイクルマーク。
製品パッケージに義務づけられているリサイクルマーク。

ポイントは、環境についての視点を一つ増やしてデザインすること。そして使用している素材が、自然に還るか、または再利用できるか、その後のプロセスを追うこと。プラスチックや化学的に作られた素材であっても、再利用することでゴミを出さないことはできるのです。これまではプロダクトのできあがりを想像してものづくりをしていましたが、これからはむしろプロダクトの使い終わりを想像して、ものづくりをしていきたいと思います。それを2022年の自戒を込めた抱負とさせていただきます。

ご家庭に飾っていただくことが多いモビール。自然環境だけでなく赤ちゃんや子供にもやさしい製品にすることが目標。
ご家庭に飾っていただくことが多いモビール。自然環境だけでなく赤ちゃんや子供にもやさしい製品にすることが目標。

 


参考資料
リチャード・フライシャー(1973年)『ソイレント・グリーン』アメリカ映画
ウィリアム・マクダナー、マイケル・ブラウンガード(著)吉村英子(監修)2009年『サステイナブルなものづくりーゆりかごからゆりかごへ』人間と歴史社