チルチンびと 別冊66号「民家の再生と創造③」
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左官の美-土壁・土間- 文・写真=小林澄夫 左ページ/塗り壁が木造住宅に寿命と美を与え、住む人の品位を感じさせる奈良の民家。130 はじめに  東京オリンピック(1964年)以前の 木造住宅には、まだ工務店が誕生する以前 の大工、左官、鳶、屋根屋といった伝統に 培われて来た職人の手で建てられた民家風 の手仕事が生んだ形や美があった。  木造住宅の外壁には、板張りのほか、左 官の塗り壁では、縁側の雨戸の上部の軒下 の壁の土中塗りの上に漆喰や大津が塗られ、 白い漆喰のほか大津は地場の壁土の色が石 灰の白に薄められているが、特色のある色 で塗られ、また玄関まわりの壁は黒の大津 壁が塗られ、大津通しの鏝跡の縞模様など 独特の風情があっていいものである。また、 腰を板張りにしたものでは、その板張りと 大津壁の取り合いのチリの部分に漆喰で水 切りを取り、塗り壁を長持ちさせる工夫な ど職人の細工にも見どころがある。  内部の左官の塗り壁は、木舞土壁の上に 土中塗り、そして、床の間などに聚楽を塗 るか天然の砂壁を塗った。聚楽も砂壁もそ のデザインというのではなく、その仕上げ の肌や色合いをめでるもので、あとは真壁 の柱のチリがすっきり通っているかいない かに職人の手をみるだけである。そのほか の内部の壁に繊維壁があって、葛壁とか絹 壁など天然の繊維屑をフノリやニカワとい った天然の糊で座敷や床の間に塗られた。 また内部の廊下壁には浅葱大津やねずみ漆 喰が塗られた。  土間は、玄関土間と縁側の下の犬走りの 土間で、いまのモルタルの土間と違って地 場の土を石灰と苦汁でたたきしめた土間は 見た目にもやさしく歩行感も自然で熱を吸 収し、しかも室内の湿度調整をしてくれて いた。  土にあれ、石灰にあれ、セメントにあれ、 東京オリンピック以前のまだ石油の樹脂を 使用することなく水と自然の素材を混ぜ合 わせ鏝で塗られていた塗り壁は、古くなる に

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