雑誌「チルチンびと」98号掲載 愛媛県 ㈱西渕工務店
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189 西渕工務店との出会いは、近くの大洲市立図書館で読んだ『チルチンびと』。自然素材に対する考え方に共感し、見学会の情報を得て参加したのが3年前。地元の工務店と知り、安心できる「顔が見える関係」であったことが依頼の決め手だった。 Mさんは、建て替えにあたって、この伝建地区に見合った家を、と考え、行政主催の町並み保存の説明会に参加した。その後、西渕工務店を通して、町並み保存地区の住宅を長年手がける、建築家の永見進ます夫おさんに出会う。伝建地区の景観保存を含んだ外観を永見さんが、内部空間を西渕工務店が設計することになった。 「我々は現代に生きているけれど、時代を超えて50年、100年経ってみたときに宇和町の風土の中に溶け込んでいるか、それが重要です」(永見さん)。 M邸は新築と思えないほどの重厚さと、洗練された雰囲気を纏う。住宅は妻側が横の壁面となった平入町家で、隣家との境界となる両側に、宇和の伝統的な白漆喰の袖壁が突き出して、軒下の空間を締めている。永見さんは「建築は〝間〟が大事」と語る。中に入ると、2階まで天井を抜いた空間が現れ、静寂が満ちていた。リビングでは念願の薪ストーブが炎を揺らし、室内をじんわりとあたためる。火のある時間は「昔、子どもを連れて、キャンプに行っていたことを思い出します」とMさんは懐かしそうに話す。庭の薪棚には、息子さんとご主人が集めた薪が積まれていた。 2018年2月、宇和町では、気温がマイナス12℃に達し、水道管が凍り町には給水車がやってくるほどの記録的な寒波が続いた。そんな事態だったが、薪ストーブが家中をあたためて、寒さを凌げたと言う。M邸の暮らしの中に、さっそく新しい記憶が刻まれていた。234

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