雑誌「チルチンびと」別冊37号掲載 愛知県 ㈲勇建工業
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P8 う一つある。中にいると静かなのだ。前の大通りを車が頻繁に通るが、騒音もさほど気にならない。これは〝土〞が音を遮る効果をもつから。そもそも同社は、木ばかりか土にもこだわりをもつ工務店である(コラム参照)。Yさんのお宅では、店は漆喰、家は土壁と、左官職でもある加村さんが自ら塗り分けた。店内の天井や壁には、蛇腹やスタッコといった古い技法が駆使されている。昔の洋館を模したしつらえにそれらがよく似合い、タイムスリップしたような気分になる。  この家での生活が始まって1年余り。LDKには日差しがあふれ、にぎやかな笑い声が高い天井に響く。郵便局の移築はままならなかったが、部屋の配置などで融通がきいたことを思えば、むしろよかったかもと奥さまがしみじみ言う。  「入居後すぐに冷え込んだ日があって、ストーブの前で家族全員かたまってましたよ(笑)。でも、なんとか冬も越せたし、やっぱりいい家だと実感しています」 会社を辞めて古道具を商う身となったご主人には、何もかもが初めての経験。試行錯誤しながら仕事を覚える毎日だが、家族と過ごす時間はぐんと増えた。  「人生のすべてが変わりました(笑)。子どもたちとしょっちゅう顔を合わせて、ごはんも一緒に食べて。商売のほうはボチボチ。時にはカミさんと喧嘩しながら、楽しくやらせてもらっています」

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