エコ建築考房「健やかに暮らす」住まいの家
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010ばんば・いくこ/近畿大学医学部環境医学・行動科学教室助教を経て、東京学芸大学教育学部講師、博士(学術)。環境整備にかかわる住まい方と、室内のにおいや化学物質・微生物などによる空気汚染について研究。著書に『東日本大震災 石巻市における復興への足取り︲家政学の視点で生活復興を見守って︲』(共著・建帛社刊)参考文献川崎通昭、堀内哲嗣:嗅覚とにおい物質、社団法人におい・かおり環境協会、2006萬羽郁子、五十嵐由利子、磯田憲生:住宅における空気環境と居住者の換気行動についての実態調査 第2報 北陸地域と関西地域の住宅を対象とした居間の臭気環境および居住者の臭気環境改善行動の実態、日本家政学会誌、61⑽、pp. 655︲69、2010飯泉元気、小峯裕己、木村洋:機器分析に基づく新築臭の測定・評価に関する研究、空気調和・衛生工学会学術講演会論文集、pp. 321︲324、2012萬羽郁子、東賢一:木材等のにおい刺激による脳血流量の経時変化、人間︲生活環境系シンポジウム報告集、37、pp.203︲206、2013ってアルデヒド類や酢酸が多く放散されていたためと考えられます。今後、産地や乾燥条件による放散量やにおい評価の違いについての情報を整理していくことで、内装材の選定に際して意匠性や健康影響への配慮はもちろんのこと、住む人にとって心地よいにおいがすることが付加価値になっていくかもしれません。私たちは材料のにおいに対するヒトの反応について、引き続き研究を進めているところです。 最後に、図6は先の大学生に木片のにおいから樹種を尋ねた結果です。いずれも日本を代表する造林樹種ですが、正答率は檜が6割、杉は1割程度でした。檜のにおいは、入浴剤や精油として比較的身近と考えられますが、材料としてのにおいを嗅いだ経験はあまり多くないのかもしれません。近年、香り付きの洗剤や柔軟剤などが多く販売されるなど、においに対する関心は非常に高まっていますが、生活空間内にさまざまなにおいが溢れているために材料そのもののにおいについては、気づきにくくなっているのかもしれません。木のよさやその利用の意義を学ぶ「木育」が注目されていますが、小さい頃から木材に触れることで、身近な材料や地域材のよさに気づき関心を持つことが期待されます。木材の触感や材のにおいを感じる体験を重ね、それをまわりの友だちや家族と共有できるような機会づくりや活動もどんどん増やしていければと思います。0102030405060708090100(%)檜杉誤答正答においの種類当ての結果図 6接着剤を用いた新建材。合成建材では、さまざまな人工合成化学物質が使用されています。木質合板やパーティクルボードでは、木材を接着剤で固めて製造しており、その接着剤にはホルムアルデヒドを原料としたものがよく使用されてきました。そのため、ホルムアルデヒドが多少なりとも放散されることがあります。ホルムアルデヒドは鼻をつく刺激臭を有する無色の気体です。ホルムアルデヒドが多く放散される質の低い木質建材からは、鼻をつく刺激臭がします。塗料や接着剤の有機溶剤に用いられてきたトルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、発泡スチロールの原料であるスチレンは、悪臭防止法の特定悪臭物質に指定されています。トルエンはシンナーの代表的な成分です。においとしては、トルエンとキシレンからは、ガソリンのようなにおい、あるいは刺激的なシンナーのようなにおいがします。スチレンからは、都市ガスのようなにおいがします。酢酸エチルやメチルイソブチルケトンからは、刺激的なシンナーのようなにおいがします。したがって、これらの物質が使用された合成建材から、これらの物質が多く放散されると悪臭と感じます。ただ近年は、有害物質の放散をできる限り低減してきているため、悪臭と感じることは少なくなっているようです。合成建材のにおい東 賢一 (近畿大学医学部)DATA : 06正答率は檜が6割、杉は1割

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