雑誌「チルチンびと」91号掲載 石川県 さとやま工房
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135ダイニングから畑を見通す。床は温かみのあるカバザクラを選んだ。「時間が経つほどに味わいが出てきました」と奥さん。 美しい色彩が目を引く九谷焼。能美市は、その全生産量の8割を生み出す工芸のまちだ。そんな能美市の一角にある、田畑に囲まれた緑豊かな住宅街を訪ねた。通り沿いに並ぶ薪棚の向こうに、広い空を背景にして、稲井さんの家が佇んでいる。「朝起きたらカーテンを開けて、まず庭を眺めるんです。今日はどれが食べ頃かなと」。子どもの頃から畑のある暮らしに憧れていたという奥さん。ブロッコリーやカブなど、四季折々の作物を年間20種類ほど育てている。畑は息子さんの遊び場でもある。青々と茂る冬野菜の根元を覗き込んだり、大人の真似をしてジョウロを運んだり。小さな足取りを夫婦が温かく見守る。畑仕事を終えてリビングに入ると、迎えてくれるのは赤々と燃える薪ストーブの炎。白くすっきりとした室内には、そこここにご主人お手製の家具があり、奥さんがつくった小物がしつらえられている。現在、育休中の奥さんは一日の多くを自宅で過ごしているが、外とのつながりがあるので窮屈な気持ちにならないそう。「初夏になると、窓を開けたら見渡す限り水田が広がって、家の中を風が吹きわたっていくんです」と奥さん。南には畑、北は一面に広がる田園という景色を何より気に入っているそうだ。

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