雑誌「チルチンびと」別冊9号掲載 新潟県 冬は炎に夏は涼風に家族が集う
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120 大雨の後、浅い池の水は濁り気味だ。でも、メダカがたくさん、元気いっぱいに泳ぐ。「ほんとうは、蛍を飛ばしたかったんですけどね」。野本建設社長の野本一隆さんは、庭を案内してくれながら言う。蛍はうまくいかなかったようだが、代わりに「近くの小学校の子どもが帰り道にここで道草して、水遊びをして行きましたよ。後で校長先生が、ご迷惑をおかけしていませんか、と訪ねて来ましてね」、とうれしそうだ。 新潟市の郊外、古い住宅街に現れたこの施設は、通りがかりには庭園つきの公共施設のように見えるかもしれない。地元の工務店、野本建設のモデルハウス「素顔の家」とショップである。 庭の真ん中あたりにそびえ立つのは、欅。池のまわり、庭の東半分を包むかのように植わる「どんぐりの森」。さまざまな樹木の名前を一つひとつ尋ねてみるとブナ、コナラ、ツバキ、ヤマモミジ、ナナカマド、イタヤカエデ、ヤマボウシ、シャラあたりまでは耳にするが、聞きなれない名も続く。カマツカ、サンシュユ、モッコク、コデマリ、ウメモドキ、エゴノキ、キブシ、イヌシデ、クマシデ、アカシデ、ザイフリボク、カシワバナラ。みな広葉樹で、敷地全体では28樹種。秋には紅葉し実を落とすだろう。そこにまた、子どもたちがどんぐり拾いに集まって来るだろう。トンボもきっと池にやって来るに違いない。何年か後にできるであろう小さなビオトープ(生態系)が目に浮かぶようだ。「泉さんはここに立って、まだ何もない敷地をにらんでました。現場師なんですね」。庭も住宅も設計した建築家、泉幸甫さんの仕事ぶりを感心して語る野本さんだ。泉さんは、東京で蛍が飛ぶ池のある集合住宅も何棟かつくっている建築家。蛍を飛ばしたい野本さんは縁あって出会えたわけだが、建築家と一緒の家づくりは初めて。 住宅の素材に、これだけ徹底して自然素材と地元材を使ったことも最初の試みだ。庭の奥に堂々と建つモデルハウスは、土入り漆喰と杉板の壁が基調の、昔のお屋敷風な外観を見せている。玄関脇の車庫までもが木の香りがする檜づくりである。 鉄平石を踏んで入る玄関から先は、〝新潟性で満たされている。主材である杉はすべて、壁の中まで山北町産を使い、寒く雪の多い冬を心温かに乗りきれるようにと薪ストーブを居間にでんと座らせた。燕産のステンレスをシンクに使った台所。家具はすべて三条の家具屋の手づくり。地場の建具屋の手による建具に、阿賀の作家によるトイレの手水鉢に。物干し場付き洗濯室を室内に取りこんだのも、新潟の冬に対応する工夫から。「昔の家のつくりだ。こんなモデルハウスは見たことない。子どもを育てるには、こういううちがいいな」。見学に来るお1新潟性〟に満ちる室内

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