と同社棟梁の伊東功さんが振り返る。 見事に生まれ変わった家では、以前とはまったく異なる家しごと、庭しごとが待っていたという夫妻。苦笑いを浮かべながらも、目には輝きが満ちている。これまでの住まい手、携わった職人の思いをついで、この家はこれからも住み継がれていくのだろう。さそうで、案の定ご主人の定位置だとか。浴室は元々あった位置に戻した形で、浴槽は和船と同じ船釘を使った檜の箱風呂。このような仕事をできる職人も数えるほどになってしまったという。天音堂代表の上利智子さんは「ご先祖様やこの家を大切にされているご夫妻の思いが職人たちの心にも届いたんでしょうね」と話す。彼らは時を刻んできた材や昔の職人と会話するようにして手を動かしたのだろうか。工事は丸一年かけてじっくりとていねいに行われた。「改修というよりは、当初の状態に〝復元〞する仕事でした。経験したことのない復元工事に携われたことに、職人として感謝しかありません」で、間取りを大きく変えたのはキッチンや浴室といった水回り。元の台所部分を増築し、茶の間との仕切りを取り払ったことで、広々と使い勝手がよくなった。野趣あふれる曲がり梁がすっきりとした空間を引き締めている。一角に設けられたL字のベンチと囲炉裏付きのテーブルはいかにも居心地がよ上/西縁側から東の庭を見通す。畳は替えたが、襖で仕切る昔ながらの田の字型の間取りは変えていない。 下/取次の間から座敷方向を見る。右手縁側をはさんで庭からやわらかな光が差し込む。
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