数十年、数百年前の 職人仕事に思いを馳せて「『屋根を今の形のまま残せませんか』というYさんの一言目が強く印象に残っています」と大沢さんは述懐する。傷んだ屋根は下地の骨組を修復して葺き替え、屋号と家紋が入った鬼瓦や銅板の箱棟も形をそのままに復元。板金工の小林繁さんは「昔の職人の仕事を見られるのは、同じ職人として幸せなこと。これもめぐりあい」と話す。外壁は板の欠けた部分を同じような木目の材で足し、漆喰を塗り直した。建具も修復してそのまま使用している。 内部も表側3間は畳の張り替えのみぎたいと思ったんです」とご主人。穏やかな語り口のなかにも、一本芯が通ったような意志の強さが感じられる。 塗装の剥がれたトタン屋根、ところどころ欠けた板張りの外壁。長年手を入れずにいたため、内部も相当に傷んでいた。それらをしっかりと直してくれるような人を、とたどり着いたのが古民家再生をいくつも手がけてきたO設計室の大沢匠さんだった。大沢さんは現地調査を行い、屋根の葺き替えや耐震・断熱補強、間取りの一部変更などを計画。各工事に必要な職人、それもこういった古民家に対応できるような腕利きの人らを集め、工事に取りかかった。写真2点/唯一間取りを変えた居間とキッチンは、曲がり梁をあえて現しにしたことで天井も高くなり、開放的な印象だ。コーナーにある囲炉裏テーブルの天板は古い民家から出たケヤキの玉杢。120
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