雑誌「チルチンびと」別冊60号掲載 神奈川県 天音堂 リフォームラボ㈱
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という。ご主人はもともとこの土地の生まれだが、仕事の都合で離れていたところ、一人で暮らす母のことを心配して奥さんとともに戻ることに。それと同時に、すっかり荒れ果ててしまったこの家のことが気がかりで仕方なかった。というのも、正確な築年数は不明ながらも、残されている資料などから200年ほどは経っていると推測される古民家。先祖代々、この場所で大切に住み継がれてきた家をあっさりと建て替えたり改修したりはできないと考えていた。「できることならば元の雰囲気を保ちながら自分たちが住み継入り組んだ細い道を進むと見えてくる風格漂う武家屋敷風の門。その門からちらりとのぞく入母屋屋根と鬼瓦からは、威厳がありながらも周囲の環境とすっと馴染むような大らかな雰囲気が伝わってくる。住宅街とは思えないほど豊かな緑に囲まれ、落ち着いた印象をより強くしている。Y邸を訪れたのは、勢いよく茂る新緑が空の青に映える、気持ちのよい晴れの日だった。出迎えてくれたのは、笑顔が素敵でやわらかな物腰のYさん夫妻。玄関からではなくガラス戸を開け放った縁側からというところが、おばあちゃんの家に遊びに来たかのような懐かしさと心地よさを与えてくれる。先に到着していた設計者や職人なども縁側に腰掛け、思い出話をするようにしてこの家についての語らいが始まった。「できるだけ         今の形のまま残せませんか」 遡ること20数年前。この家にはご主人のおじいさんが娘と暮らしていたが、その後は長いこと空き家になっていた右・下/裏山を背負い、威風堂々たる構え。屋根は下地の骨組みから箱棟までも復元するという大変な職人仕事だった。 左/屋号があしらわれた鬼瓦は元あったものと同様につくり直した。 右下/横浜市の住宅街にありながら、電線や電信柱などが一切視界に入らないぜいたくなロケーションに佇む。119

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