ベニシアと正、人生の秋に
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4目が不自由になったベニシアと正面から向き合うようになって、1年近くの月日が流れた。もちろん僕たちは、同じ家で一緒に暮らす夫婦だ。とはいえ、昨年9月にお手伝いのSさんが辞めるまでは、ベニシアのことを僕はよく見ていなかったと思う。Sさんと気が合うようなので、僕はベニシアのことを彼女にまかせていた。そして自分の仕事や好きな登山のことばかりを考えていたのだ。Sさんが来なくなったので、1日3度のごはんは僕がつくるようになった。病院への付き添いや買い物にも行くようになったし、洗濯や掃除などの家事が僕の仕事になった。そうしてベニシアとの夫婦生活に関わる時間が増えたことで、小さな発見が毎日のようにある。愛する人との出会いがあり、結婚し、家族をつくる。でも結局、人が死ぬときは一人なのだろうと、これまでの僕は考えていた。多くの野生動物のメスと子は群れをつくるが、成長したオスはほぼひとりで行動する。猿の群れにはボス猿というオスの存在がある。それでも、やがて若く強い別のオスが現れると、闘いの末、落ち目のボス猿はボスの座を追われる。そして群れを離れて一人で生き、やがて静かに死んでいく。僕はいちおう人間だが、きっと動物のオスと似たようなものだろう。ベニシア、おそらくこれからもあなたは、この人生を自分流でやっていくのでしょうね……。そう僕は思っていた。客観的と言えば聞こえはいいが、あなたの人生を僕は傍観していただけなのかもしれない。バツイチ同士の再婚なので、前のパートナーとの家族関係が今もずっベニシア へ

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