チルチンびと別冊69号「民家の再生と創造⑤」
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土壁の美しさをこよなく愛し、「壁 から家をデザインする」という加村義 信さん。それはどういう意味なのでし ょうか。 「壁は、外界と屋内を、また室内と室 内を区切るためのものですが、それだ けではありません。千利休が好んだ茶 室の土壁のように、そこには伝統的な 美しさと精神性が宿ります。いわばそ の家の象徴となるデザイン。僕はお施 主さんと話し合う中で、オリジナルな 壁を提案し、それを建物全体に波及さ せるということを常に考えています。 壁から発想して、家全体をデザインす るわけです。そして、同じ壁はつくら ない。その家に合わせてデザインを変 えていく。そういう左官はいないと思 います」。  加村さんがデザインする土壁を手が けるようになったのは、 30 代半ばに四 国へ行き、土佐漆喰を初めて見てその 美しさに感動、「左官って面白いな」 と感じたことがきっかけだと言う。そ こから左官の歴史を学び始めて、多く の重要伝統的建造物群保存地区を巡る 旅をした。早稲田大学建築学科の学生 たちとの勉強会も大きな転機だったら しい。  土、砂、石……その土地にある素材が壁になる。塗り壁は、火災に強く、 冷暖房費用が少なくてすみ、調湿作用 があり結露しない。防腐剤などが含ま れていないため健康によく、地球環境 を汚染することもない。経年変化を見 続けることができるのも、塗り壁なら ではの楽しみだ。 「今は大黒柱や床の間がない時代です。 たとえば家族で記念写真を撮るときに、 この前で撮ろうかと思うような、家の 象徴となる場所がありません。だから こそ撮りたくなる壁をつくりたい。毎 年撮ることで、お子さんの成長と同時 に、土壁の成長が見えるはずです。壁 が住まう人にとって、そういう楽しみ の一つになることを望んでいます」。

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