住宅雑誌「チルチンびと」89号 小さな畑のある家
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15が出ないよう作付けには工夫がいります。広い場をとる南瓜は、畑の土手際に毎年しっかり堆肥を入れ、土手下の通路の上に稲は架さの材料を利用した棚を十メートル位の長さでつくり、その上に蔓を這わせます。南瓜が大きく実ると通路の上の棚から、いくつもの立派な実がぶら下がり何とも愉快です。今では夏の風物詩、南瓜のトンネル。幼い孫達がこの下をくぐって通園、通学する姿を見ていると自然に頬が弛みます。限られた耕作地、小さな農業ならではの工夫とその果実、胸にしみます。 ところで野菜づくりで苦労が多いのは、鳥獣害対策と虫取りです。特にキャベツや白菜等には青虫がよく着きます。私が青虫を捕っていると、幼い孫が「何しているの? どうするの?」と顔を寄せてくる。「虫さんを捕らないと葉っぱが食べられ、みんなの分が無くなるから。虫さんは可哀想だが池の鯉や鶏のエサにするよ」と答えて一緒に池の鯉や鶏に青虫をやりに行く。こうすることで、子供は食べ物を育てることの苦労や、いのちの循環を自然に学んでいく。農の営みの中には、生きていく上での大切なことを次代を担う子供達に、しっかり伝えてくれるものもあります。 大地に汗して働く大人の姿を見て、子供達は無意識のうちに自然の大切さと大人への尊敬の念を深めていくのです。 「麦の家」では、生命と暮らしに直結した農の大切さを理解し、少しでも土に着いた生き方を実践してもらうことを願って、春にはお田植祭、秋には抜穂祭を執り行っています。また、正月には新春講座を開催し農業や環境、経済や文化、生き方等々について多くの人達と研鑽を積んでいます。 「麦の家」は、家族が日々生活し次代を繋ぐ暮らしの場00000、創意工夫をもって仕事に励む生産の場0000、そしてより良き社会を創る為の学び合いの場000000でもあるのです。 現代社会は自然災害の多発に加え、経済至上主義による人間疎外、そして連日のように起こる不幸な事件等々真に混迷の時代です。この時代を乗り越え、こころ豊かで平和感溢れる社会を構築する為には、自ら自然の一員としての自覚のもと経済至上主義を改め、まず自然への畏敬と感謝の念を深め、人間本来の創意工夫による人間の為の物づくりに励むことが大切です。 「麦の家」の小農的暮らしの中に次代に繋がる大切なものがあると思っています。慎ましやかで、こころ豊かな簡素で祈りある暮らし0000000000の拡がりを願っています。合掌。右から /じきに穂が出る田。番犬として活躍してくれた亡き愛犬タロー。 /9月初旬の抜穂祭。 /抜穂祭に参加した人々が囲炉裏端で意見を交わし研鑽を積む。右から /囲炉裏端からの眺め。人を迎え学ぶ場としてつくられた家でもある。 /雪見障子が切り取る田と畑。 /礎石にのる柱。風通しがよく柱の付け根が湿っ気ない。

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