住宅雑誌「チルチンびと」89号 小さな畑のある家
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14 比叡山の麓の小さな谷間に「麦の家」はあります。東に琵琶湖を望み、周りはぐるっと山と林に囲まれた自然豊かなところです。 今は、三世代八人家族がここで暮らし、田畑を耕し米や野菜をつくり、自家用に果樹や茶を栽培、桑を育てお蚕さんを飼い、繭から糸を取って機織りをしています。また「麦の家」は古い葭葺き屋根なので、その手入れや他の建物の修繕等もできるところは自分達の手で行っています。 人間の暮らしは、衣・食・住が一体となってはじめて成り立つものだと思いますが、ここでは家族が協力し直接、衣・食・住に係って日々働いています。 現代の経済優先社会では、直接自分の衣(衣服)・食(農業)・住(住居)に係る人は大変少なくなっていますが、これは人間本来の暮らしの姿ではありません。 衣・食・住は暮らしの三要素ですが、その中でも食は最も重要です。人間は食べずには生きられません。真に食はいのち00000であり、この食を支えるのが農0です。 古より我が国は「豊葦原の瑞穂の国」と言われるごとく、稲が豊かに実る米の国です。このことは日本の気候風土が豊かな自然を生み、民族の生命を支える農作物の栽培に適しているということであり、今日過度に重視されている経済や科学文明と比してはならない至上のものです。 「麦の家」では、小さな谷間の限られた耕地で主食たる米と四季折々の野菜、果樹等を栽培していますが、大切なのは土づくりです。養分の無い土では立派な作物はできません。山の落葉や土手の草、稲藁、台所での料理屑、飼っている鶏の糞、下肥等々で堆肥をつくり田畑へ鋤き込みます。 ここは開墾地で初めは痩せ地でしたが、何十年もかけて土づくりをした苦労が実り、今では変化の激しい気候条件の中でも確実に実りを得、家族の健康な食を満たしてくれます。これこそ、この地にあるものを生かした循環の暮らしであり、何よりもこの自然に感謝しています。 当地は小さな谷間にあるので耕地は狭い中、多品種の野菜をつくるので連作障害次代へ繫ぐ 小農的暮らし右から /春、苗代田の畦のまわりを耕す。 /5月初旬のお田植祭。この日参加した老若男女が田に苗を植える。 /家の前のささやかな畑。お蚕さんは桑の葉を食み、小さな繭をつくる。大切な繭から手繰りで細い細い糸をつくる。糸は裏山の栗や桜、椿や藍で染め上げ、機を織る。文=山崎 隆(「麦の家」主人)

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