住宅雑誌「チルチンびと」85号 我が家の庭暮らし
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17 虫取り網片手に愛用の麦わら帽子を被ったら、今日も冒険の始まりだ。小さな雑木林のような庭には、たくさんの虫も棲めば鳥も遊びにやってくる。植物が生命力をみなぎらせるこの時期の庭は、日に日に姿を変えるワンダーランド。「あ、テントウムシだ。アブラムシを食べてくれるんだよね」「これはお花の赤ちゃんだから、摘んじゃだめってお母さんが言ってたよ」。はなちゃんと条君の好奇心も尽きることがない。 そんな姉弟を見守る母親の柄えみこ美子さんのまなざしは、限りなくやさしい。更地から丹精込めてつくった庭は、3年目を迎えた。曰く、「暮らしをしつらえる家具を揃えるように」1本1本樹を選び、植えた樹々や下草はトラック3台分。植樹もプロに頼るのは最小限に留め、夫妻でともに土を掘って根づかせた。とりわけ思い入れが深いのが、カツラ。植えて間もなく台風で傷めつけられ、新芽が出ても暴風雨にさらされ諦めかけた。「けれども、もうちょっとだけ一緒に頑張ろうよ、と待ち続けました。そしたら3年目にして元気に葉をつけてくれたんです」。 樹は1本1本、違うリズムをもっ東面からの眺め。緑で家を囲うような植栽を考えた。秋になるとカツラはアーモンドの香りがする葉を落とす。道行く人がかすかな香りに気づいてくれれば……と柄美子さん。左:南面から室内を見る。 右:平屋建ての平井邸。大きな開口部のある右手のLDKと向かいあう子ども室の間はオオモミジで目隠しを。大きな樹木の配置は建築家の松原正明さんが、プランとあわせて練った。

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