住宅雑誌「チルチンびと」77号 -庭仕事のある家-
8/9
のは、勝吉さんの趣味のオーディオの
音響を考えてのこと。食堂の窓辺の席
は、夕暮れ時に灯した照明が女性の美
しさを引き出す特等席。奥村夫妻の
娘・織お
り工こ
う
おきぬさんの手によるバラの
カーテンは、暮らしをやさしく包んで
くれる。間取りに始まりしつらえに至
るまで、日々さまざまな発見がある。
そして何といっても、青々とした草
の庭。「家事が、楽しくなってきたん
です。物干し場の足元にはミントが生
えていて、踏むとパッと香りが散る。
ああ、幸せだなって思う」(美紀さん)。
もちろん雑草の庭は、生命力が強い反
面、手入れが必須。荒れ放題で踏み入
ることもできなければ、愛着をもてず
重荷になってしまうから、鎌を手にし
て草刈りは欠かせない。「人間と同じ。
愛おしいと思うこともあれば、あまり
の逞しさに憎たらしい時も(笑)」。
庭仕事から見えてくるのは、3・
11
以降の暮らしを見つめる手がかりだ。
「動物としての本能と、人工的に住む
場所をつくろうとする知性。人が健や
かに暮らすには自然をコントロールす
ることも必要ですが、技術を過信して
快適さを追求するのは、健全ではない
気がして」と、工学に携わる勝吉さん。
庭先で風にそよぐ雑草たちは、声を
上げずとも雄弁に、人の営みのありか
たを指し示してくれている。上/居間から食堂を見る。斜めに振れた壁や厚い床板は音響を考えてのこと。 右上/奥村夫
妻との出会いとなった玄関扉。 右下/「装飾を排して簡素を求める」向きがあったという辻田
さん。家ができてから壁に絵を掛けるなど、暮らしを飾るしつらえも楽しむようになったとか。
23
元のページ
../index.html#8