住宅雑誌「チルチンびと」77号 -庭仕事のある家-
7/9

花にこそ日本の美意識が宿ると言う。 「風に揺れる草を愛おしむのは、日本 人ならではのやさしさ。絵巻物にも見 られるよう、平安時代より脈々と、名 もなき草の文化はありました」。  そして「庭はつくるものではない、 そこにあるもの」とも。「地面に眠る 恵みを〝生えてください.とそのまま 受け取る。そんな庭にしたかった」。 もちろん住まい手の賛同あってのこと。 辻田夫妻は、見事にのってくれた次第。  きっかけは、美紀さんの勤め先の向 かいにあった、とある公共施設の木の 扉だった。仕事で壁にぶつかると、そ の扉の取手に頭を埋め、そっと心の中 で語りかけていたという美紀さんは、 「家を建てるなら、扉をつくった人に頼 みたかった」と思い起こす。その施設 の設計者が奥村昭雄さん。事務所を構 える東京から奈良までの距離を厭わず、 快く現場に足を運んでくれた。  さらに奥村夫妻の取り計らいで、施 設が取り壊される時、件の扉を譲り受 けることに。「お二人からは、たくさ んの愛情をもらいました。住むにつれ、 そこここに昭雄さん・まことさんの深 い心遣いを感じます」と辻田さんたち は語る。たとえば、LDK が不整形な 愛情と草花に包まれて  

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る