住宅雑誌「チルチンびと」73号 -花と緑と暮らす-
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ギャラリーにもなる。そもそも溢 れんばかりに並ぶ花自体が作品で、 この古い薬局は角島さんにとって 花器のようなものなのだ。 「今日は花よりも緑が目立つ取り 合わせですね。この時期は、自然 界が緑一色だから」と店内を見回 す角島さん。店の様子は日々変わ り、白い花だけで埋め尽くされる ことも。扱う花は「その日、花市 場で惹かれたものだけ」と潔い。 東京で花の勉強をした後、石川 に帰郷したら、花を主役とした生 け方に違和感を感じるようになっ た。「葉を落としてまで花を目立 たせるのが、不自然に思えて」。 この土地の植物は、太平洋側とく らべて葉の存在感が大きいことに 気がついた。「雪や雨から花を守 るように、葉をつけるんです」 たっぷりの緑のなかに、差し色 のように色づく花びら。そのさま は漆の艶のように、陰影があって こそ引き立つ光にも似ていて、北 陸ならではの美意識が感じられる。 80 年もの時を重ねたこの建物に も、大いに啓発されている。薬棚 など元の調度品を花器に見立てた 空間づくりはもちろんのこと、建 物の雰囲気を損ねないよう、花屋 でよく目にする冷蔵のショーケー上/ガラスの花器に初夏の草花を生ける角島さん。背後には元からあった薬棚が。11 年前に譲り受けてから大きな改修はせず、当時の趣を大事に保っている。 下段右から左へ/薬棚の引き出しに白いキキョウを挿して。 /花の間が透いているのが名の由来のスカシユリ。色の強い花を緑や中間色でつなぎ、全体を立体的に整 える。「花を買っていただくと、“ バランスが崩れちゃう! ” と心の中で叫ぶことも(笑)」 /可愛らしいニゲラ。 /ガラスの水盤にデルフィニウムを浮かべて。 

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