住宅雑誌 「チルチンびと」68号 -花の庭、花のしつらえ-
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その花は、か細く、どこか頼りな さげだ。   花茎はひょろりと好き勝手なほうを向いているし、花弁の開き具合も不揃いに見える。   花屋の軒先で、真っ直ぐな茎に支えられ堂々と花弁を開く売り物からすれば、不完全に映るかもしれない。   しかしその花には、眺めるほどに、引き込まれる何かがある。   売り物の花にくらべて、一見心もとなく思えたその姿も、人に媚びない毅然とした決意の現れであるかのように見えてくる。   同時に、鑑賞のために光と肥やしを与えられた花の完璧さが、いびつで〝不自然〞に思えてくる。   ―野の花に惹かれるのは、そのやさしげな佇まいだけではなく、自然という名の孤高を纏っているからかもしれない。 * 「初夏の山野に、白い花が多くなるのはなぜか知ってる?」   庭で手折った白い一輪の花を生けながら、Sさんは続けた。 「緑が濃くなっても、白い花が目印になって鳥が見つけやすいから。種

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