チルチンびと121号「子どもの五感を育む庭」
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苔との出会い 昔から植物が好きだったとい う勘村さん。今の家と出会うま では苔にほとんど興味がなく、 庭の知識もなかったという。 「 10 年前、横浜から金沢にU ターンすることになって、この 町家と出会いました。民家が密 集している金沢の旧市街で、庭 づくりを考えたときに、限られ た日照でも育てられる苔や山野 草の庭はどうかな、と思ったこ とがきっかけで苔庭づくりを始 めました。自分が年齢を重ねた ことで、華やかさよりも親しみ のある落ち着いた庭に惹かれて いったことも大きいと思います。 何より山歩きが好きだったので、 そこで見つけた風景を表現して みたくなりました」。 苔といっても、日陰や湿気ば かりを好むわけでもない。適度 な日当たりも必要だし、成長力 が著しく強いものもあり、バラ ンスが見極められずに繁殖しす ぎたり、病気で枯らしたりもし た。「今でこそ苔ブームもあっ て情報も多いですけど、 10 年前 はあまり情報がなくて、自分で 試行錯誤しながら育てていまし た」。 日々庭の苔を観察したり、山 歩きの回数が増えて発見するな かで、いろいろなことを調べて いくうちに知識も増えてきた。 だんだん、それぞれの苔が好ん だり苦手だったりする環境がわ かってきた。大切なのは、その 場所、環境に合う苔を育てるこ とだという。 散歩の途中や庭の中で出会う 苔をよく観察してみると、種類 によってかなり形状が異なるこ とに気づく。小さな人形を苔の 上に置いてみると、草原や里山、 稲穂などに見えてくる。霧吹き で水をかけると、水を含んでよ うすが変わる。ルーペで見ると、 苔の表面に生えている毛の存在 に気づく。見れば見るほど可愛 く、面白くなってくるのが苔観 察の魅力のようだ。 なぜ苔が好きなんですか?  と尋ねると「綺麗じゃないです か」とシンプルな答え。1年中 美しい緑色を庭にもたらしてく れる苔は、勘村さんにとって日 日の潤いだ。飽きることなく今 日もまた、苔を愛でる。

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