チルチンびと119号「伝統構法と和モダン」
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土壁の伝統美を 現代に生かすために  土壁の美しさをこよなく愛し、 「壁から家をデザインする」と いう加村義信さん。それはどう いう意味なのでしょうか。 「壁は、外界と屋内を、また室 内と室内を区切るためのもので すが、それだけではありません。 千利休が好んだ茶室の土壁のよ うに、そこには伝統的な美しさ と精神性が宿ります。いわばそ の家の象徴となるデザイン。僕 はお施主さんと話し合う中で、 オリジナルな壁を提案し、それ を建物全体に波及させるという ことを常に考えています。壁か ら発想して、家全体をデザイン するわけです。そして、同じ壁 はつくらない。その家に合わせ てデザインを変えていく。そう いう左官はいないと思います」。  加村さんがデザインする土壁 を手がけるようになったのは、 30 代半ばに四国へ行き、土佐漆 喰を初めて見てその美しさに感動、「左官って面白いな」と感 じたことがきっかけだと言う。 そこから左官の歴史を学び始め て、多くの重要伝統的建物群保 存地区を巡る旅をした。早稲田 大学建築学科の学生たちとの勉 強会も大きな転機だったらしい。  土、砂、石……その土地にあ る素材が壁になる。塗り壁は、 火災に強く、冷暖房費用が少な くてすみ、調湿作用があり結露 しない。防腐剤などが含まれて いないため健康によく、地球環 境を汚染することもない。経年 変化を見続けることができるの も、塗り壁ならではの楽しみだ。 「今は大黒柱や床の間がない時 代です。たとえば家族で記念写 真を撮るときに、この前で撮ろ うかと思うような、家の象徴と なる場所がありません。だから こそ撮りたくなる壁をつくりた い。毎年撮ることで、お子さん の成長と同時に、土壁の成長が 見えるはずです。壁が住まう人 にとって、そういう楽しみの一 つになることを望んでいます」。

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