チルチンびと117号「窓辺の緑」
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清々しくて 飽きのこない庭  木々の緑が色濃くなる初夏、 雑木の庭づくりを手がける作庭 家の平井孝幸さんを、西東京市 にある造園会社「石正園」に訪 ねた。敷地に入ると、そこは別 世界。「森の中みたいでしょ」 と笑う平井さんの言葉通り、東 京の住宅街とは思えない静謐な 緑の世界が広がる。  日本の里山に自生する木々を 庭に使う「雑木の庭」は、昭和 初期に作庭家・飯田十 じゅうき 基氏によ って生み出され、歴史を紡いで きた。平井さんは飯田氏の最後 の愛弟子であり、個人宅から茶 庭、商業施設、産院などにおい て、自然を感じる庭づくりを続 けている。「雑木の庭の特徴は 何ですか」と率直な質問を投げ かけると、「原寸大ってことで す」と穏やかな口調で話し始め た。「雑木林の中にいるような清々しい感じを、なるべく自然 の姿形のままにつくるんです。 派手さはない、なんてことない 景色だけど、心が落ち着いて飽 きることがない。建築家の吉田 五十八は住宅建築の極意につい て『特に褒めるところもけなす ところもない。でも居心地がよ くて長くいたくなる』と言った けれど、それに似ていると思い ます」。  飯田十基氏が登場する前の伝 統的な庭園は、趣向をこらし、 つくりこみ、完璧な美しさを求 める傾向が強かった。足を踏み 入れた人をそっと包み込む雑木 の庭とは、相反する性質を持つ。 「例えば京都の桂離宮の庭。き れいですごいなあと思うけれど、 ずっと見ていると僕はちょっと 疲れちゃう。一方の雑木の庭は、 『どうだ。見てみろ』という感 じがしない庭。忙しくてストレ スが多い今の人は、雑木の庭に 癒されるんじゃないかなあ」。雑木の庭づくりにおいてまず 大切になるのは、自然の景色を 知ることだ。平井さんは、若い 頃から時間を見つけては野山に 足を運んだと振り返る。「リュ ックにスケッチブックとおにぎ りを入れて、朝から山に入るん です。そして、木がどう伸びて いるか、石はどうおさまってい るかなどをじっくり観察して描

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