雑誌「チルチンびと」109号 -この庭が楽しい -
7/17

仲間たちと石を積み上げてつくったというクレマン自邸。さまざまな草花が好き勝手に生えている(クレマン撮影)。13るから。ヒヨドリなんかが実をついばみ、糞と一緒に種子を落として生えてきたんだろう。 知れば知るほどに、そこに生えている草花には物語がある。その理由の先には草花や虫や鳥の生態が絡みあっている。庭はそんな草花や生きもののドラマに満ちている。ぼくらはとくに美しいわけでも、格好いいわけでもないような「うちの庭」で、何度も間違え、何度も失敗しながら、庭に手を入れていく。庭をつくっていく。 そのときどきのマイブームとともに植え替えられる、無数の花や野菜や果物。とどまることなく入れ替わっていく草や樹木。これは抜いてあれは残すといった日々の判断の積みではありませんか。だとするならば、闇雲な行動をとる前に必要なのは相手をよく知ることではないだろうか?あなたの庭は動いている そう、深呼吸してもう一度庭をよく見てみよう。幸い敵は致命的なモンスターではないのだから。いや、そもそも敵でさえないのだ。 玄関の敷石の隙間に生えてきたのは、おそらくは蟻が運んだスミレの花。昨年敷石の目地に蟻が巣をつくっていたんだろう。歩くのに邪魔かもしれないけれど嬉しい来客。来年はどこから生えてくるだろう? プランターから飛び出してしまったのはスペアミントのこぼれ種。そていき、見知らぬ種がはびこる。もうダメだ……。 「たしか先週の日曜に草刈りしたよね? もう復活してんだけど?」。加えて6月にもなると雨と晴れが交互にやってきて、イネ科の植物なら草刈り後1週間で30センチ伸びてるなんてこともざら。庭に立ち向かうのがあなた一人なら、庭じゅうを防草シートやコンクリートで覆い尽くす殲滅作戦を展開したくもなるだろう。ぼくらはよくわからないものたちの襲来に怯え、気がつけばこのおびただしい植物の群れを目の前から消し去りたいと心から願っているのだ。 でもちょっと待ってほしい。自暴自棄な行動を選んだ者から順に退場するのがパニック映画の教訓だったパニック映画としての庭 「玄関の敷石の隙間に花植えてたっけ?」「プランターに植えてたハーブが庭に拡がってるんだけど?」「フェンスの脇から知らない木が生えてきてる!」。 庭ではこんなことばかり起こります(笑)。 なにも知らずに庭を持ってしまったら、ゾンビや恐竜や地球外生命体の襲来に晒され続けるパニック映画のモブキャラにでもなったような気分になるかもしれない。こいつはどこからやってきたのか? あいつはどこに行ってしまったのか? 素知らぬ顔して生えているこいつらは何者なのか? 仲間たちは次々と枯れもそもモヒートを飲みたくて育てはじめたのだから、この際たくさん飲んで、ついでに料理に使ってみるのもいいかもしれない。雑草なみに増えるのだから減っても気にする必要はない。 フェンスの脇から生えてきたのは巨木になるエノキだろうか。これは場所と相談が必要だ。なんでフェンスの脇かと言えば、鳥がフェンスに止ま

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る