雑誌「チルチンびと」108号 -いい家の条件-
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 創業50年を数える加賀妻工務店は「(施主に)妥協を求めず(自らの家づくりに)妥協せず」をモットーとしている。社員のほとんどが建築士・管理士・インテリアプランナーなど建築にかかわる有資格者。棟梁制を守り続ける一方で、意匠や構造から性能まで多面にわたるブレーンの個性を生かし、あらゆる家づくりの要望に応えている。昭和と現在、変わる大工修業 まず加賀妻会長に、大工修業についてうかがった。「私は15歳の時に東京都杉並区の親方と5年間の契約を結んだわけです。住み込みで修業をし、年季が明けるとお世話になったお礼に1年間の礼奉公をして、ようやく一人前の職人として認められたものです」。修業中は早起きをして食事の支度や清掃をこなす。それから現場に急ぐと、刃物の研ぎ桶や砥石を並べ、棟梁の到着を待つ。昼休憩も刃物の手入れや清掃に精を出し、家へ帰れば自分の衣類を洗濯し、道具を修理した。親方夫妻に気に入られ、より難しい仕事を与えてもらえるよう、兄弟弟子で競い合う日々だったという。遊ぶ暇もなかっ13たが、「職人としての腕や人となりの基礎を築けたありがたい期間だった」と振り返る。 では、プレカット材を電動工具で加工でき、建前はクレーンで行う右ページ/木材に指示書きをする墨付け。 右/仕口や継手、ほぞ穴の切断線は、指矩と墨差しを用いて引いていく。 左/長さ2間の材に1尺間隔の目盛りを入れ、尺杖といわれる定規をつくる。ようになった現在はどうだろうか。「道具を手入れする工程がなくなりました。新築に関しては、性能のいい電動工具を巧みに使いこなせ、図面を見る力があること。あとは建前後の工程さえ覚えれば、家を建てられます。真面目で器用な人ならば3年ほどで一人前になっていくのではないでしょうか」。また、力仕事が少なくなり、女性でも大工をめざせるようになったと話す。「今、うちにはカップルの大工がいますが、見ていると女性のほうがきめ細やかなようで、清掃が綺麗で養生も立派。女性には繊細な家づくりができるかも知れません」。次世代の大工に求めること かつてのように年季を置かずに、比較的早く一人前になれるようになったが、職人を育てあげるのは難しい。まず、法定の最低賃金では辛抱しきれず挫折してしまう人

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