住宅雑誌『チルチンびと』105号 -緑と暮らす-
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115う溶液の性質を示す値。溶液の液性が酸性であるほど0に近く、アルカリ性であるほど上限値14に近くなる。ウイルスにはそれぞれに生息可能な域があり、鳥インフルエンザウイルスを例にとってみると、12以上では増殖が抑制され感染力を失う。同じく多くのウイルスにおいて12というのは生息域でないため、有効であると考えられるのだ。ウイルスと漆喰 では、消石灰を主成分とする漆喰ではどうか。村樫石灰工業でも、SARSや新型インフルエンザ、鳥インフルエンザなどの新型ウイルスの世界的な流行を背景に、漆喰の抗ウイルス性を検証する実験を行ってきた。「国内の鳥インフルエンザウイルス研究の権威とされる研究機関で行った、漆喰の抗ウイルス性能の試験は、平成21年の中頃から開始。実験は、1年間ほどかけて行いました」。以前、村樫石灰工業と協力関係にあったマスクメーカーとの縁で、研究機関との共同研究につながった。 実験は、培養した調整ウイルス液(鳥インフルエンザウイルスH5N3亜型)漆喰とは 「建材としての漆喰の定義は、まず主成分が消石灰であること。これに亀裂防止のための繊維(スサなど)や粘性・保水性を保つための糊を混ぜたもの、用途に応じ骨材などを加えたものと理解しています。使用方法は、適切な下地に左官鏝こてを用いて塗り付けます。主原料である消石灰は、鉱山で採掘された石灰石を900~1300℃で焼成し、得られた生石灰(酸化カルシウム)に水を加えると消石灰(水酸化カルシウム)になります」。教えてくれたのは、村樫石灰工業の技術部で主席研究員を務める伊奈幸雄さん。 消石灰といえば、口蹄疫や鳥インフルエンザの消毒などにも用いられることで知られるほか、水害発生後の消毒用としても利用されている。強いアルカリ性を示す消石灰は、多くのウイルスや病原菌に対して有効性が確認されている。 ではなぜ、強アルカリ性であることがウイルスに対し有効なのだろうか。消石灰は12という非常に強いアルカリ性を示す。このとは、水素イオン指数といに石灰試料(条件の違う自社漆喰製品)をそれぞれ接種し、ウイルス増殖の有無やウイルス力価を確認するというもの。対照として何も接種されていない調整ウイルス液の数値が示されているが、差は歴然(図1)。「漆喰の強アルカリ性がウイルスに有用という結果を実験室では得ることができました。しかし、乾いた状態の漆喰壁で同等の効果があるとは言い切れません」。 乾いた漆喰壁は、完全に中性化するのだろうか。「漆喰壁は、表面から時間を追うごとに炭酸化し、弱アルカリ性を示すようになるが、中性化するわけではなく、内部は強アルカリ性を維持しています。数十年前の日本家屋では、換気の悪い押入などにカビを防ぐため漆喰が塗らスサ※本ページ内の写真、特記無きものすべて村樫石灰工業提供。糊石灰罹患施設内の消毒に消石灰を用いる職員たち。(提供:毎日新聞社)

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