田中敏溥大全 -人と仕事- 建築家座談会「我ら新潟人～新潟のいい家を考える～」

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15田中：物干し場のない家では、茶の間なんかに干しているんだけど、家事をする人からすると専用の部屋が欲しいよね。それから、外から帰って来た時に服についた雪を払える風除室が便利。そして、玄関まわりには、除雪器具を置ける納戸があるといいね。水澤：あと、新潟市や村上市といった海に近い地域は風が本当に強い。すごいですよ、冬の北西の風は。冬は風が吹いてドアが開けにくいということがあるので、玄関では風の方向を考えてポーチに柱を建ててそこに板を入れています。こうした風除けは必ずといっていいほどつくりますね。田中：冬場、海岸側はシベリアから北風が吹くので雪が横から降ってきます。さらに風が強いともう、地面から雪が舞い上がってくる。だから、軒天井に雪がくっつくんですよね（笑）。こういう冬の悪い風は防ぎ、夏はいい風が入るように風通しをよくすることが重要なんです。新潟の夏は、かなり蒸し暑いですからね。日本全体にも言えることだろうけれど、特に湿気の多い新潟では夏場の風通しを考えることは大切です。——新潟の家に大切な冬の雪対策が具体的にわかりました。その上で、夏場のことも考えた計画が重要なのですね。皆さんは、新潟県以外でも多くの住宅設計をされていると思いますが、特に田中さんの住宅は地域を超えて、普遍的に受け入れられています。田中さんが考える「いい家」ってどんな家なのでしょうか？田中：いい家の条件というのは、日本全国でそう大きく変わることはないと思うんですよ。たまたま雪が降るとか、たまたま台風の通り道だとか、こうした気候風土の違いを私は「特殊性」と呼んでいますが、新潟の場合では、さっき挙げたような雪や風、湿気による暑さと雪の重さ……。これらの特殊性に配慮することが大切です。そして、もう一つは、自由な社会にある「個別性」。建主一人ひとりの要望を受け止めて家づくりを行うことです。　そしてもう一つ、私の設計した住宅が各地で受け入れられたのであれば、その家のつくり方や雰囲気が地域の人の感性——それを私は「時代の感性」と呼んでいますが、その地域の人が持つ時代の感性と合ったのかもしれない。昔と今では、家づくりがずいぶん変わってきている。たとえば昔なら、代々その家族の家をつくった大工がいたりして、息子が家を建てる時には父からその大工に頼めと言われたものです。でも、今は親父は親父、俺は俺だという感覚で、自分にあった建築家なり工務店と家をつくるのが普通ですよね。こうした変化は、時代が家づくりや暮らしに求める要求なのだと思います。私は、時代の要求を全部まるごと肯定してしまうことはないとしても、受け止めた上で立ち位置を決めています。社会は変化していくけど、変わらないものもあるんですよ。——その変わらないものとして、田中さんが大切にしているのが「向こう三軒両隣」という考え方ですね。田中：そう。親しく交際する近隣の家を指す言葉ですが、暮らす、住む、家を建てるということの中に、近隣に対する配慮があっていいんじゃないかと。それは、現在の家づくりの中に欠けてしまったものの一つだと思うのです。もちろん、私がそれを「取り戻せ」と言ったところでなかなか難しいのですが、おせっかいだとわかっているけど言っておこう（笑）という。だって家は車と違って場所を選べないでしょ。土地があってそこに家を建てるわけだから、その場所に合わせてつくる。　昔はいいも悪いも含めて、家はまちのものでもあった。自分のお金でつくるものだけど、世間というものを意識して家をつくっていた。そういうのは個人の自由を縛る古い因習として悪い面に作用することもあるけれど、家が自分のものであると同時にまちのものでもある、というのは、日本に限らず、大昔からどこの国でもあったと思います。　いい家とは、このように風土などの特殊性、建主の要望などの個別性を踏まえつつ、普遍的な価値観も盛り込んでつくられた家ではないでしょうか。田中敏溥たなか・としひろ／1944年生まれ。■田中敏溥建築設計事務所〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-26-10 風蓮人ビル10203-3320-5854FAX 03-3320-3803水澤 悟みずさわ・さとる／1959年生まれ。■ 水澤悟建築設計事務所〒188-0011東京都西東京市田無町3-11-12増田ビル4F042-451-8274FAX 042-451-8279古泉 丞こいずみ・たすく／1960年生まれ。■古泉建築設計室〒179-0072東京都練馬区光が丘1-3-83103-6904-3841PROFILE普遍的な美しさを持つ、田中さんが設計した住宅。（写真／垂水孔士）玄関ドア奥が木製の風除け（写真／垂水孔士）。

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