田中敏溥大全 -人と仕事- 建築家座談会「我ら新潟人~新潟のいい家を考える~」
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14を一人延々と歩くんですよ。もちろんまわりに家がある場所もあるけど、村と村の間には家がなくて。こんなことをしているとたくましい子が育ちますよ(笑)。田中:粘り強いということで思い出したけど、東京のお風呂屋さんには新潟出身者が多いとか。水澤:過酷でやり手がいない銭湯の仕事を、我慢強い新潟の人が関東に出てやっていたそうですね。大阪だと福井や富山の人が。それに新潟では女の人も仕事をしますよね。うちは田舎ということもあって冬は仕事がなくなるので、僕が小さい頃、父は東京に出稼ぎに行っていました。特に当時は東京オリンピックがあったので、新潟からたくさんの人が出稼ぎに出ていたと思います。——なるほど。東京は新潟人がつくったと言っても過言ではないかもしれません(笑)。さて、続いて家づくりの話もうかがいたいと思います。新潟で家を建てるとしたら、今まで教えていただいた、新潟の風土・歴史、県民性や暮らし方にも配慮する必要があると思いますが、皆さんが設計する時に気をつけていることはありますか?田中:何と言っても、いちばんは雪でしょうね。水澤:東京から電車に乗り、清水トンネルを抜けて新潟に入ると、それまでの群馬の風景とはがらっと変わる。湯沢のあたりはものすごい猛吹雪でも、だんだん雪の降る量が少なくなり、長岡まで行くとほぼ止む。そこから新潟へ行くとまた晴れていたりする。ただ、雪の少ない地域でもそれなりには降りますから、雪対策は最重要。たとえば「屋根の雪止め」。雪が隣の家に落ちないように、屋根の上にパイプ状のひっかかりを設けます。雪止めというのは、屋根に上って雪下ろしするときに落ちないための足掛かりでもあるんですよ。だから、関東とかで見かける、本当に雪を止めるだけのものよりも、丈夫につくります。田中:昔は丸太で雪止めをしたりしたなあ。水澤:へえ、それは見たことないですね(笑)。特に雪の多い地域は、冬前になると雪囲いというのをするんですよ。住宅だけじゃなくて施設とか学校も。屋根の雪を落とすと、落とした雪が窓ガラスに覆いかぶさってくるので、窓を守るために窓に板を付ける。それが11月半ばに始まって、3月くらいまで。雪囲いをすると家の中はもう真っ暗。田中:町家のあたりだと、道路に「雁木」という雪囲いをします。上越地方が有名でしょう。水澤:魚沼でも雁木にしていましたね。いわゆる商店街のアーケードみたいに柱をたてて、家の窓から軒を出してその間は通れるようにして。今はあまり見ませんが。雪に関して続けると、屋根の形も大切ですね。上って雪下ろしするのが大変なんですよ。なるべく屋根の形はシンプルなほうがいいと小さい頃父親もよく言っていました。うちは、建て増しで屋根の形が複雑だったので(笑)。古泉:僕も小さい頃は雪下ろしを手伝わされましたね。昭和38年の豪雪は大変でしたよ。水澤:サンパチ豪雪かー。ふだんは雪の降らない新潟市でもそうとう積もりましたが、魚沼はいつもそのくらい降ります(笑)。雪下ろしはすごく重労働。雪って重いんですよ。積もってくると襖が開かなくなるんですから。田中:現在だと、道路と車庫の間に雪が積もると朝除雪するのが大変ですね。だから車だけのことを考えると屋根は境界ぎりぎりまで伸ばしたいが、自分の敷地のことだけ考えればよいのかとも思うし、迷いどころですね。ああ、それから玄関が平入りだと危ない。古泉:上から雪が落ちてくるからですね。田中:玄関は妻入りで庇を付ける。もちろん、ケースバイケースですけどね。でも、絶対つくったほうがいいと思うのは、室内の物干し場。冬は洗濯物を外に干せないから。冬の新潟は曇天が続くんです。鉛色した天井ですよ。古泉:冬も湿度は高いですから、乾きにくいですよね。サンパチ豪雪で長岡市の新天街に積もった雪。これを機に消雪パイプが普及。(提供/ジオテクサービス㈱)雪止めの鋼管の例。(写真/西川公朗)昭和30年代初頭の高田の雁木通りを再現した展示。道路が埋もれても行き来できる。(提供)新潟県立歴史博物館)

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