雑誌「チルチンびと」99号掲載「小笠原からの手紙」
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114紅の美しい花をつけます。しかし、これら固有種の現状はきびしいものがあります。東洋のガラパゴスとも言われる小笠原諸島のユニークな植物は、侵略的外来種のモクマオウやアカギなどにより、生育地が侵され絶滅の危機に追い込まれています。その数は10種に余ります。私たち小笠原野生生物研究会は外来種の駆除や植生の回復活動を通じて小笠原の植物の保全につとめています。『フィールドガイド』には小笠原本来の植物、特に固有種を紹介することと、明治以来南方各地から導入された熱帯植物も紹介するという二つの柱を立てました。小笠原本来の植物は『フィールドガイドⅠ・Ⅱ』でその多くを紹介したため、まだ取り上げていなかったものを入れるようにしました。結果として在来種30種、帰化種70種になりました。『フィールドガイド』はコンパクトにできています。持ち歩くのに便利で、街中はもちろん野山でも手軽に利用できます。街中には内地ではあまり見掛けない植物が咲いています。島を訪れる人は、この本を使ってこれらの植物の名前を調べることができるでしょう。ように小笠原は、ハワイやガラパゴスと同じように大洋島の特長である固有種が多く、その数は数十種以上です。海に浮かぶ島でも沖縄は、かつて大陸の一部が離れて島になった大陸島なので、島になった時すでに大陸と同じ植物がありました。したがって、小笠原ほど固有種も多くはないのです。 小笠原の固有種にはユニークなものが見られます。たとえば、キク科の植物は一般に草本ですが、小笠原の「ワダンノキ」(キク科)は4メートルほどの木になります。また、ポリネシア系の「ムニンフトモモ」は大きな木になり真 小笠原の島々は、海底火山や地殻の変動により海面に浮かび出た大洋島です。島ができた時には生物がまったくいない島でした。時とともに海流や鳥などにより、大陸や他の島々から運ばれて来た種子などが芽吹いて住みつきました。これらの植物が200〜300万年も経つと元の植物とは異なった形になり、DNAまでも変化して、よそでは見られない「小笠原の固有種」が生まれ、今も小笠原の野山に生えています。この 昨年末『小笠原の植物フィールドガイドⅢ』を上梓することができました。 この本は私が八丈島で教鞭を執っていた当時の教え子、風土社の山下武秀君から制作をすすめられたのですが、私はすでに小笠原の野生植物は『フィールドガイドⅠ・Ⅱ』でほぼ紹介したと考えていたのでお断りしました。しかしその後も山下君から再三おすすめされ、また、小笠原野生生物研究会の会員の中からも協力するので『Ⅲ』をつくろうという声もあり、重い腰を上げ『フィールドガイドⅢ』をつくることにしました。小笠原からの手紙『小笠原の植物 フィールドガイドⅢ』誕生文=安井隆弥ムニンフトモモ。父島列島の固有種。真紅の長い雄しべが特徴的。左から『小笠原の植物フィールドガイドⅠ・Ⅱ・Ⅲ』。小社刊、定価(本体=1,000円+税)ワダンノキ。キク科の大木で母島の脊梁(せきりょう)山地に多い。アカギ。侵略的外来種だが弟島では駆除事業が成功。モクマオウ。侵略的外来種として駆除の対象となっている。小笠原の植物が直面する危機植物の名前を知ろう

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