雑誌「チルチンびと」97号掲載「小笠原からの手紙」 
1/2

128ロヅケ、オガサワラスガイなど潮間帯の貝類には固有種が多い。 水中にいる貝でひときわ目立つのがシャコガイの仲間のシラナミガイで、大きいものは幅1メートルにもなる。岩の間に口を開いてカラフルな軟体部をのぞかせている。ミクニシボリは小型で目立たないが、楽しい模様がついている。 大勢で探す観察会では、このように滅多にお目にかかれないものも見つかるので面白い。 棘皮動物とは、ウニ・ヒトデ・ナマコのグループである。棘皮動物は陸上に進出しなかった動物のグループで、磯でも干潮時にやっと姿を見せる。ウニでは、バクダンウニという大型のウニは迫力がある。オウサマウニ科という原始的なウニの仲間で、中心部だけで10センチ以上、トゲの部分まで含のですか」などと聞かれる。それほど地味な存在ではあるが、本州のヒザラガイとは違い、これも固有種。よく見ると、貝殻に美しい刻印がある。 そのまた近くには、水が嫌いなタマキビの仲間がいる。三浦半島ではタマキビとアラレタマキビという種類であるが、小笠原ではイボタマキビとオガサワラタマキビである。イボタマキビは本州では波当たりの強い岩場に多いが、小笠原ではどこにでもいる。オガサワラタマキビは白くてきれいなタマキビで、名前のとおり小笠原固有種である。この2種は暑い小笠原の夏の岩場でも殻を閉じ熱くなった岩になるべく接しないようにして、じっと耐えている。 貝類は移動範囲が狭いためか固有種となったものが多い。本州のイシダタミに似るが、緑色がきれいなクサイロイシダタミやオオクイ。これは小笠原固有種で天然記念物でもある。周辺の無人島ではハガキ大ほどに成長したものもある。「カサガイ類」は笠型をした貝類の総称で、日本ではヨメガカサやベッコウガサなど数十種類が知られている。その中で小笠原固有種という希少種なのに、カサガイ類を代表するような、単純な「カサガイ」と命名されたのは面白い。カサガイは水につかるのが嫌いなようで、いつも海から出て濡れないところに付着している。 同じように水に濡れないところにいるのがホウライヒザラガイ。よく「化石ですか」「生きている 毎年、春の大潮に合わせて磯での観察会を行ってきた。本州の都立高校に勤めているときには三浦半島の磯を中心に見てきたが、5年前にここ小笠原高校に赴任してからも磯観察は欠かさない。小笠原は干満の差があまり大きくないが、それでも春の大潮にはふだんは水中にしかいないサンゴやウニも顔を出す。 小笠原の磯で見られる代表的な生物を紹介したい。まず、カサガ小笠原からの手紙小笠原で見る磯の生物文・写真=新行内 博暮らしの連載Vol.31世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。天然記念物。巻貝の一種で、小笠原固有種。海水面より上の水しぶきがかからないところにいる。小笠原の海の深い青色は「ボニンブルー」と呼ばれる。かつてこの島が「無人島(ぶにんじま)」と呼ばれていたことに由来。小笠原固有種。本州のヒザラガイに似る。尾板の中央の隆起と中間板の縁に密な顆粒があるのが特徴。小笠原固有種。石畳状の模様がある。本州の同種は、赤・黒・茶系だが、小笠原では緑がかった色。丈夫な糸を出して岩やサンゴに張り付き、そこを中心にして穿せん孔こうし、棲みついている。春の磯観察固有種が多い貝類ふだんは目にしない棘きょく皮ひ動物カサガイクサイロイシダタミホウライヒザラガイシラナミガイ

元のページ  ../index.html#1

このブックを見る