雑誌「チルチンびと」96号掲載「小笠原からの手紙」 
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107る。このままでは、恐らく父島の野生のカタマイマイ類はあと5年ほどで絶滅してしまうだろう。カタマイマイ類の保全のために現在私たちがすべきことは、まだ本種が侵入していない母島や兄島などに絶対に侵入させないことである。本土~父島間、父島~母島間の移動に際し、靴底を洗浄する対策も行われているが、今後は本種が分布する沖縄などからの植物の移動は避けるか、十分な検疫を行う必要があるだろう。れいなくなるはずである。しかし実際には、カタツムリがいなくなった地域でも本種がうようよいたのである。「なぜなのか?」と考えていたその時、「例のプラナリアが、死んだミミズにたかっています!」とSさんが駆け込んできた。不明だった謎が解けた。 その後、本種は生きたカタツムリ以外にも、他種のプラナリアや生きたミミズ、さまざまな動物の死体を食べることが明らかとなった。このことは、本種はカタツムリを食べ尽くしても、他の餌を食べて生き残り続けることができることを意味する。 そして、ニューギニアヤリガタリクウズムシは「農業害虫防除のための天敵」という扱いから「侵略的外来種(※註2)」として扱われるようになり、2000年にはIUCN(国際自然保護連合※註3)が作成したリスト「世界の侵略的外来種ワースト100」に掲載された。また、我が国でも2006年に特定外来生物に指定された。 この日、小笠原諸島は世界自然遺産に登録された。しかし現在でも父島のニューギニアヤリガタリクウズムシの分布は拡大してい減ったが、固有種も絶滅してしまった。なお、現時点で本種を駆除する方法はない。 この日私は職場の実験室で、アルバイトのSさんが来るのを待っていた。父島へのニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入確認後の調査で、本種の分布は父島のみで、幸い母島には侵入していないことがわかった。だが調査の過程でどうしてもわからないことがあった。本種がカタツムリを食べ尽くせば餌がなくなり、本種もいずア島の都市マノクワリで発見され、学名にも「マノクワリ」という語が含まれている。本種は環太平洋地域に侵入していた農業害虫であるカタツムリ、アフリカマイマイ(小笠原諸島にも1930年代に食用などのために台湾から導入)を食べることがわかったため、1970~1980年代にかけて、アフリカマイマイを駆除するために各地に導入された。しかし、アフリカマイマイだけを食べるわけではなく、あらゆるカタツムリを食べてしまうため、本種を導入した地域ではアフリカマイマイはNatureおおばやし・たかし/1965年東京生まれ。博士(農学)。2016年まで父島の研究機関に勤務。日本自然科学写真協会、日本セミの会、小笠原野生生物研究会、小笠原自然文化研究所等会員。島民の一部からは「せみちゃん。」「虫くん」と呼ばれているらしい…。外来種のウスカワマイマイは近年母島で急増。沖縄から侵入したと推定されている。外来種のアフリカマイマイ。小笠原には1930年代に食用・薬用として台湾から持ち込まれたとされている。ニューギニアヤリガタリクウズムシ。背中に1本の白い線があるのが特徴。小笠原諸島世界自然遺産のシンボルマークの中央には、登録の主要因となったカタマイマイ類が描かれている。父島躑つつじやま蠋山から望む父島の森。かつてはここにもカタマイマイ類がいたはずだが今はいない。※註1 扁形動物門渦虫綱渦虫目に属する動物の総称。※註2 外来種の中で、地域の自然環境に大きな影響を与え、生物的多様性を脅かすおそれのあるもの。※註3 1948年に設立された、国家政府機関・非政府機関で構成する国際的な自然保護ネットワーク。日本は1995年に加盟。2018年6月8日(金)〜14日(木)、六本木・富士フイルムフォトサロンで「大林隆司写真展ー私が観てきた小笠原の自然」を開催。http://fujifilmsquare.jp/1998年12月4日2011年6月29日

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