雑誌「チルチンびと」96号掲載「小笠原からの手紙」 
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106んでいることが知られ始めていたプラナリア(※註1)の一種、ニューギニアヤリガタリクウズムシのことであった。彼はこの生き物を採集し、プラナリアの分類研究の第一人者である藤女子大学のK氏に送り、種名を調べてもらったところ、確かにニューギニアヤリガタリクウズムシであった。小笠原諸島にこのプラナリアが侵入していることが確定した瞬間だった。 本種は陸上に棲むプラナリアで、1960年代にニューギニに登録される一つの理由となった。小笠原諸島が「東洋のガラパゴス」と呼ばれるゆえんである。しかし父島ではカタマイマイ類が1990年代から激減し、その原因は長らく不明であった。 「んっ?!これは……!」 カタマイマイ類の減少要因を探るべく、父島の三日月山を訪れていた森林総合研究所のO氏は、落ち葉の裏に付いている黒いヒルのような生き物を見つけた。「ひょっとしたら“あれ”かもしれない」。“あれ”とは、海外でさまざまなカタツムリを絶滅に追い込94%に達する。その中でカタマイマイ類は小笠原諸島のカタツムリを代表するグループで、殻が非常に堅いことからこのような名前が付けられ、現在までに20種以上記録されている。全種が国指定の天然記念物であり、うち14種が国内希少野生動植物種に指定されている。C氏などの研究により、遥か昔に日本本土から小笠原諸島にたどり着いた祖先種が、島の中でさまざまな生息環境に応じて現在のような多様な種に分かれたと推測されている。これはガラパゴス諸島の小鳥、ダーウィンフィンチと同じことが起きているということで、小笠原諸島が世界自然遺産 小笠原諸島にしかいないカタツムリ、カタマイマイ類を研究していた静岡大学のC氏(現東北大学)は、2年ぶりに訪れた父島の三日月山でカタマイマイ類がいなくなってしまった状況に慄然としていた。「おかしい。2年前にはあんなにたくさんいたはずなのに全くいない……」。 小笠原諸島は海洋島であることから、生き物の固有率が高く、植物では45%、昆虫では28%であるのに対し、カタツムリではなんと小笠原からの手紙父島のカタマイマイに起きた悲劇文・写真=大林隆司暮らしの連載Vol.30世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、研究者が紹介します。カタマイマイ。ヤシの仲間であるビロウ林に分布する。アケボノカタマイマイ。この螺旋に進化の歴史が刻まれている。父島の南西にある南島には、絶滅したヒロベソカタマイマイの殻が大量に散らばっている。20種以上にのぼるカタマイマイ類の多様性。(東北大学・千葉聡ホームページ「進化の小宇宙:小笠原諸島のカタマイマイ」http://mand0.webcrow.jp/mandtop.htmlより)1991年10月カタマイマイとは1995年9月ニューギニアヤリガタリクウズムシとは

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