雑誌「チルチンびと」95号掲載 「小笠原からの手紙」 
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113思われがちだが、ハラビロトンボの仲間に近縁とされている。しかしながら、いくつもの相違点があることから、オガサワライトトンボ属と同様に小笠原にしかいない固有の属とされた。固有種以外のトンボ広域分布種 小笠原では、固有種以外にアオモンイトトンボ、キバライトトンボ、トビイロヤンマ、ギンヤンマ、オオギンヤンマ、ベニヒメトンボ、ハネビロトンボ、コモンヒメハネビロトンボ、ウスバキトンボ、ウミアカトンボなどが記録されている。ほとんどが島外から飛来するが、一部は定着している。これらの中で最もよく見られるのは、ウスバキトンボとアオモンイトトンボ(一見、固有種オガサワライトトンボに似る)で、ほかはベニヒメトンボ、コモンヒメハネビロトンボ(一見、固有種シマアカネに似る)がそれに次ぐ。のは、この性質からグリーンアノールからある程度は逃れられていたためではないかと推察される。小笠原にも分布するアオモンイトトンボ(広域分布種※註3)に近縁であるが、いくつかの相違点があることから小笠原にしかいない固有の属(分類学上のまとまり)とされた。オガサワラトンボ 一見すると黒っぽく見えるが、眼が透明感のある濃い緑色、頭部と胸部が青緑銀色、腹部が黒に近い金緑色で渋い美しさがある。雄と雌で体色はあまり変わらない。現在確実に見ることができるのは弟島(および兄島)のみである。このオガサワラトンボもオガサワラアオイトトンボと同じく、最も絶滅の可能性が高い種であるといえる。本種は南西諸島方面に分布するミナミトンボやリュウキュウトンボに近いとされる。シマアカネ 雄の腹部は鮮やかな濃赤色で、先端は黒い。雌の腹部は地味な橙色で、やはり先端は黒く、雄よりも太い。顔を正面から見ると、額がブルーのメタリックで美しい。種名に「アカネ(茜)」とあるので、いわゆる「赤トンボ」の仲間だと日本返還直後の調査時に未発見だったためか、固有種のトンボで唯一国の天然記念物に指定されず、その点でも「悲劇の種」といえる。本種は本土に分布するホソミオツネントンボに近いとされる。オガサワライトトンボ 雄は全体的に黒っぽく、眼の後ろと胸部に水色の紋があり、腹部先端は水色のペンキを塗ったようである。雌は眼の後ろに水色の紋、胸部に緑色がかった水色の紋があるが、腹部全体は黒に近い金緑色である。羽化直後の体色が白っぽい状態でも飛ぶことができることから、固有種のトンボの中で父島(筆者は1998年に確認)や母島で最後まで生き残っていたNatureおおばやし・たかし/1965年東京生まれ。農学博士。2016年まで父島の研究機関に勤務。日本自然科学写真協会、日本セミの会、小笠原野生生物研究会、小笠原自然文化研究所等会員。島民の一部からは「せみちゃん。」「虫くん」と呼ばれているらしい…。全長約30㎜。全身が紅色で華奢な感じのする小柄なトンボ。全長約50㎜。一見シマアカネに似るが一回り大きい。全長約50㎜。小笠原で最も普通に見られるトンボ。全長約30㎜。交尾中の雌(左)と雄(右)。雄は一見オガサワライトトンボに似る。南島の陰陽池で発生した広域分布種アオモンイトトンボ。固有種のトンボはこのような環境ではまず見られない。ベニヒメトンボコモンヒメハネビロトンボウスバキトンボアオモンイトトンボ小笠原で見られる固有種以外のトンボ※註1/分布が特定の地域に限定される動植物の種。大陸から隔絶されている島嶼などで多く見られる。※註2/いわゆる「種の保存法」に基づき、国内に生息・生育する絶滅のおそれのある野生生物のうち、人為的な影響により減少が見られる種など。※註3/世界中のほぼどこにでも生息する動植物種。2018年6月8日(金)〜14日(木)、六本木「富士フイルムフォトサロン」で小笠原の自然に関する写真展を開催予定。(広域分布種)

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