雑誌「チルチンびと」95号掲載 「小笠原からの手紙」 
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112ヤマハナダカトンボが分布する。オガサワラアオイトトンボ 大型のイトトンボ。ぱっと見は白っぽく見えるが、胸部側面に唐金色と銅色の模様があり、眼が空色で渋い美しさがある。雄と雌で体色はあまり変わらない。現在確実に見ることができるのは弟島のみである。しかし弟島でも近年の降水量減少により生息場所の池沼の渇水が激しく、いつ絶滅してもおかしくない状況にある。そのため弟島に衣装ケースなどを利用した人工の池を置き対処しているが、本種は小笠原、いや、日本のトンボの中でも最も絶滅の可能性が高い種であるといえる。さらに、ンボ、オガサワラアオイトトンボ、オガサワラトンボは国内希少野生動植物種 (※註2)に指定されている。いずれも木漏れ日が射すような少し薄暗い沢や池に棲み、開けた環境で見ることは少ない。以下にその5種を紹介する。ハナダカトンボ 額が突出し鼻のように見えることからこの名がある。雄の腹部は鮮やかな濃赤色だが、木漏れ日に紛れると案外目立たない。雌の腹部は地味な橙色で、雄よりも太い。雄は縄張りを張り、他の雄が侵入すると対面して腹部を上下に振りながら争う。西表島にはハナダカトンボにきわめて近い、別種ヤエ島に人為的に持ち込まれた外来種のトカゲ、グリーンアノールの捕食によるものであることが判明した。なお、2013年3月に兄島でも本種の侵入が確認され、影響が懸念されている(小誌86号参照)。固有種のトンボ 世界中で小笠原諸島にしかいない固有種のトンボ5種は、先述のとおり、現在父島・母島ではほぼ絶滅し、父島・母島の周辺属島でしか見ることができない(一部の種は火山列島〈北硫黄島・南硫黄島〉にも分布)。なお、オガサワラアオイトトンボを除き、すべて国指定天然記念物に、ハナダカト2001年5月「本当にまったくいない……ここは固有種 (※註1)のトンボがいそうな環境なのに……」。私は心の中でそうつぶやきながら、父島の沢沿いを歩いていた。そして、数年前に固有種のトンボが見られたはずの母島の沢にも、トンボの姿は皆無であった。 一方、父島と海を隔てた兄島や弟島に行ってみると、父島や母島ではまったく見られないそれらのトンボが普通にいるではないか!「この違いは何なのか?」 この原因はその後の調査により、1960年代にグアムから父島に、1980年代に父島から母小笠原からの手紙父島・母島から消えてしまったトンボたち文・写真=大林隆司暮らしの連載Vol.29世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。全長約50㎜。空色の複眼と胸部の唐金色の模様が美しい。4~10月に見られる。全長約55㎜。体全体の色彩が濃い青緑色のメタリック。ほぼ一年中見られる。全長約30㎜。額が飛び出していることと翅が胴体よりも長いことが特徴。3~11月に見られる。固有種のトンボが棲む小笠原・兄島の沢。木漏れ日が射すような環境を好む。全長約35㎜。腹部先端は水色のペンキを塗ったような色。3~12月頃に見られる。全長約35㎜。背面から見ると腹部の幅が広いことがわかる。5~9月に見られる。オガサワラアオイトトンボ(雌)小笠原で見られる固有種のトンボオガサワラトンボハナダカトンボ(雄)オガサワライトトンボ(雄)シマアカネ(雄)

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