雑誌「チルチンびと」93号掲載 「小笠原からの手紙」 
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97 山地の樹林の中で樹木に絡みついたり、林床に広く展開するオオシラタマカズラ(アカネ科)は、遊歩道を歩いてもふつうに見つけられる。5〜6月に淡緑色の花をつける。果実は緑色であるが12〜1月頃になると熟して白い実になる。まさに「シラタマ」である。〈冬〉 冬の景観は、落葉する木は3、4種で山は青々とし、山を歩いても汗もかかないで快適な季節である。 ハイノキ科のチチジマクロキ、ウチダシクロキ、ムニンクロキの3種とも12月中旬に開花し、花季もほぼ定まっている。 父島にはチチジマクロキとウチダシクロキの2種がある。前者は林縁や疎林の中で生育している。高さは3メートルくらいで美しい白花をつける。紫色の枝が屈曲しているのも面白い。後者は裸地に近い乾いたところに生育している。丈は低く根元から枝分かれした樹形で、葉は肉厚で裏側に反り返って水分の蒸散を少なくし、乾燥に耐えられるような形をしている。花は白いがチチジマクロキのほうが綺麗だ。この二つの種は祖先の種が異なる環境で育ったことにより、それぞれの環境に適応して形や機能が分かれて進化したので「適応放散」による進化という。 ムニンクロキは母島の西にある向島にあり、樹高は4〜5メートルでほかの樹木と混生している。近くの母島やほかの離島にはなく、長い間(100万年単位)の隔離により父島の2種のクロキとは違った進化を遂げたのであろう。冬の花と果実 冬に咲くムニンシュスランは、やや湿潤な林床に生える。小笠原の固有種で草丈は10センチあまり、12月から1月にかけ淡紫色の小花が集まって咲く。地味なラン科植物であるが、群生しているところは冬の静かなお花畑を見るようである。 樹林の中で幅広く周囲の木に絡みつくオガサワラグミは蔓が6〜7メートルまで伸びる。蔓の太いものでは直径7センチほどになる。12月頃山中を歩くと素敵な芳香が漂っている。あたりを見回すとグミである。花は高いところにあり目立たない。春から初夏にかけ果実が赤熟する。 林縁や開けたところにはムニンセンニンソウ(キツネノマゴ科)が所々に生えている。この蔓性の植物は近くの木によじ登り、木の枝を白い花で覆ってしまう。9月頃にこの花が咲き乱れている姿は見事である。 ムニンアオガンピ(ジンチョウゲ科)は山地の日当たりのよい屋根や放置された畑の跡地などに生える低木。ガンピの仲間である。樹皮は強靭で、いわゆる雁皮紙の材料である。春と秋の2回黄色い小花をつける。場所により春や秋ばかりでなく、季節にあまり関係なく咲いている。秋の果実 山地に生えるヤロード(キョウチクトウ科)は5月頃に白花をつけ、10〜11月頃に黄色でやや大きな果実が対になって枝につく。ヤロードという種名は、小笠原の欧米系住民がこの木をyellow woodと呼んでいたのが日本人にはヤロードと聞こえたようである。右/オオシラタマカズラは蔓性植物で、低木などに絡みついて生長する。 左/くっきりと黄色に色づいたヤロード。二つ水平に実がなる。右列上から/暗紫色の枝をもつチチジマクロキ、葉が内側に丸くなるウチダシクロキ、ムニンクロキ。 左列上から/小花が可愛らしいムニンシュスラン、赤い実をつけたオガサワラグミ、花真っ盛りのムニンセンニンソウ。

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