雑誌「チルチンびと」93号掲載 「小笠原からの手紙」 
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96暮らしの連載NATURES父島の秋から冬の植物vol.27文・写真=安井隆弥ノロジーが、うまくかみあって共生関係を形づくっている。〈秋〉 秋に咲く花で目立つのはムニンフトモモである。父島の山地に散生するフトモモ科の亜高木で、樹冠を広くひろげ空間を大きく独占する。花は真紅の長い雄しべを多数つけ美しい。花蜜も多く昆虫やメジロなどが集まる。通常はあまりたくさんの花をつけないが、年により樹冠いっぱいに花をつけることがあり圧巻である。 夏も終わる頃になると、キンショクダモ(クスノキ科)の黄色い小さな花が枝のまわりにたくさんつく。葉の裏面が黄金色の細毛で覆われているので、金色椨(キンショクダモ)と呼ばれる。葉の裏面の黄金色は、父島列島では兄島、弟島と北へ行くほど濃くなる。さらに北の聟島列島の島々のものは鮮明な黄金色で美しい。キンショクダモの種子はアカガシラカラスバトが好む餌である。小笠原の季節 小笠原は亜熱帯地域なので、季節感がはっきりしない。冬らしい冬はないが、12月ともなると半袖姿が少なくなる。 植物の世界では開花や盛花の時季はあるが、その後もだらだらと咲き続けるものが比較的多い。たとえばムニンヒメツバキは5月下旬から6月にかけて花盛りであるが、11月の終わりまで咲き残っている。 このような季節感のはっきりしないフェノロジー(植物季節)の環境が、実は小笠原のハナバチの仲間にとっては、大変棲みよい環境なのである。小笠原のハナバチはミツバチのように社会生活を営まないで、その日ぐらしの生活を送っている。小笠原のハナバチにとっては、花がだらだらと咲いてくれないと困るのである。このように昆虫と植物のフェ世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。やすい・たかや/1931年生まれ。生物教諭として都立八丈高等学校勤務を経て、78年~91年、都立小笠原高等学校勤務。定年退職後も小笠原に留まり小笠原野生生物研究会を設立。2000年にNPO法人化、理事長となる。同会著『小笠原の植物 フィールドガイドI、II』が小社から発売中。 白い花が美しいムニンヒメツバキ。小笠原村の村花にも指定されており、父島ではいたるところで目にすることができる。「ムニン」と付く植物は多々あるが、小笠原諸島が無人島と呼ばれていたことに由来する。右から /鮮やかな赤色の花がひときわ目をひくムニンフトモモ。花が終わると果実が膨らみだす。 /少し涼しくなってくるとキンショクダモが花をつける。 /ムニンアオガンピは丸みを帯びた葉が枝先に集中し、黄色い小花が複数つく。

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