雑誌「チルチンびと」92号掲載 「小笠原からの手紙」 
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102り、貝殻の中に水分をため込むことで鰓や皮膚による呼吸ができる。しかし、悲しいかな、オカヤドカリ類は自ら貝殻をつくることはできない。彼らの生態は、島の巻貝の大きさや量に左右されてしまうのだ。 小笠原の海に暮らす巻貝は、小さな種ばかりである。ビーチで貝殻を求めさまよっても、驚くほど成果が上がらない。小笠原のオカヤドカリたちの多くは、小型の海の巻貝、そしてカタマイマイ類というカタツムリの仲間の貝殻を宿貝にしてきた。これらの貝殻は数センチ程度の大きさであるため、オカヤドカリ類もそれ以上は大きヤドカリ、オオトゲオカヤドカリという種が生息する。サキシマオカヤドカリは真っ赤な体色をしていてよく目立つ。オオトゲオカヤドカリは暗褐色のからだに毛が発達し、迫力満点である。種が違うと性格も違うようである。オカヤドカリは驚くとすぐ貝殻に閉じこもり、なかなか出てこない。オオトゲオカヤドカリは貝殻に身を隠さず、一目散に逃げ出す。追いかけると貝殻を投げ出してしまうこともある。島の貝殻事情 オカヤドカリの仲間は貝殻なしでは生きられない。貝殻で身を守踏む足音が意外に大きく響き、自然と笑みが浮かんでくる。オカヤドカリの種類 小笠原諸島には5種のオカヤドカリ類が暮らしている。一番多いのはムラサキオカヤドカリで、全体の99・9%を占める。オカヤドカリの種類を正確に見分けることは実は難しいのだが、小笠原ではムラサキオカヤドカリと答えればほぼ正解なのだ。紫色や青色から白っぽい個体までバリエーション豊かで、体色で見分けることはできない。残りの4種はなかなかお目にかかれないが、オカヤドカリ、ナキオカヤドカリ、サキシマオカオカヤドカリの季節 春号では貝殻をつくらなくなった貝、ウミウシを取り上げた。今号では貝殻なしでは生きてゆけない甲殻類、オカヤドカリの仲間たちをご紹介したい。オカヤドカリ類は、海岸から標高200メートル以上の台地の上まで、島のあらゆる場所で目にする。そして、初夏になると海岸のすぐ裏手に広がる森、“海岸林”に続々と集まり、おびただしい数の群れをなす。この季節は彼らの繁殖期なのだ。海岸林の林床にそっと腰を下ろし、目を閉じてみよう。ザワザワザワザワ。オカヤドカリたちの落葉を小笠原からの手紙小笠原のオカヤドカリ類文・写真=佐々木哲朗暮らしの連載上/父島中山峠から小港ビーチを見下ろす。ビーチの奥には帯状に海岸林が広がっており、オカヤドカリたちが繁殖のため集まる。 右/初夏の小笠原。梅雨明け直後はガスがかかる。ナキオカヤドカリ。小笠原では稀だが、琉球列島ではムラサキオカヤドカリよりも多い。オカヤドカリ。用心深く、一度貝殻に閉じこもるとなかなか出てこない。オオトゲオカヤドカリ。イカツイ風貌だが逃げ足は早い。サキシマオカヤドカリ。真っ赤な体色が特徴的。Vol.26

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