雑誌「チルチンびと」91号掲載 「小笠原からの手紙」 
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132暮らしの連載NATURES「貝の仲間の驚きの生態」小笠原のウミウシvol.25写真・文=佐々木哲朗中から細い透明な〝軟骨〞が出てくるが、これは貝殻の名残だ。ウミウシもイカ・タコと同じで、立派な貝殻を持つ種、痕跡的な貝殻を持つ種、貝殻が完全になくなった種がいる。脱・貝殻 サザエ、アワビ、ハマグリ、カキ……貝は本当に美味しい。立派な貝殻を持つ種は、その中に美味しい身を隠していると言っても過言ではない。貝殻を捨てたウミウシはどうやって捕食者から身を守っているのだろうか。そう、彼らは〝不ま味ずくなる工夫〞をして生き残ってきたという。 コンガスリウミウシが餌とする海綿動物体の仲間からは、多くの生物活性物質が発見されており、医薬品への応用も進められている。海綿動物を食べるウミウシは、このような物質を体内に取り込み、魚などが嫌がる物質として分泌することで身を守る。ブルーが清々しいフリエリイボウミウシを手に取ると、がっかりするような異臭を放つ。同じケースに他の生物を入れておくと、この分泌物によって死んでしまうこともある。 圧巻はミノウミウシの仲間の〝盗とう刺し胞ほう〞だ。彼らの多くはクラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物を食べる。イソギンチャクに手を触れるとベタッとくっつく。また、クラゲに触れた場合、種によってはひどく腫れてウミウシの季節 小笠原は冬を迎えると日差しが弱まり、鮮やかに青かった海も色味を失い冷たい世界へと変わってしまう。しかし、薄暗い海中では、ある鮮やかな生物が続々と増えている。冬はウミウシたちの季節だ。何の仲間? ウミウシは、実は貝の仲間だ。貝にもアサリのような二枚貝、イカ・タコの仲間などいろいろあるが、ウミウシはサザエやカタツムリと同じ巻貝の仲間である。貝殻が見当たらないのに貝の仲間? と不思議に思うかもしれない。しかし、貝殻は貝という生物の本体ではなく、身を守る一つの構造である。イカやタコにも貝殻があった。大昔に繁栄したアンモナイトの仲間やオウムガイには立派な貝殻がある。スルメイカを開くと、背世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。ささき・てつろう/1976年生まれ。東京都調布市育ち。小笠原自然文化研究所副理事長。大学生時代にアオウミガメの調査ボランティアに参加するため、初めて小笠原を訪れる。青い海と不思議な自然に魅せられて後に移住。右から /タイワンカヤノミガイ。立派な貝殻を持つ原始的なウミウシの仲間。/カノコウロコウミウシ。右側が顔で小さな黒い点は眼。背中に鹿の子模様の突起を多数そなえる。脱貝殻によって生まれた造形美。 /ゼブラユリヤガイ。ウミウシは巻貝の仲間だが、このウミウシは何とアサリのような2枚の貝殻を持つ。貝殻ははじめ巻いているが、やがて2枚の貝殻を形づくって成長する。上/小笠原の冬の海。海中では美しいウミウシたちが季節を謳歌する。 右3点上から /中央に海蝕洞の空いた母島四本岩。 /薄暗い海蝕洞の壁をライトで照らし調査する。ダイバーも、石の裏に迷い込んだ小さな生物のようだ。 /石の裏は多種多様な生物が暮らす小宇宙。ウミウシの餌となる固着動物も多い。

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