雑誌「チルチンびと」86号掲載 小笠原からの手紙
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島列島・父島列島・母島列島で、果樹や野菜の害虫であるミカンコミバエの根絶に成功している。さらに、1990年代から2000年代までかけて、聟島列島の聟島・媒島・嫁島、父島列島の兄島、弟島、西島、南島で、ノヤギ*6の根絶にも成功している。これらは、駆除方法が確立していたために根絶に成功したわけだが、それでもたとえばミカンコミバエでは、1968~1975年の基礎研究期間を合わせると、15年以上の歳月がかかっている。決定的な駆除方法が確立していないグリーンアノールについては、数十年にわたる息の長い取り組みが必要であり、基礎的研究に基づいた効果的な駆除方法の開発が求められている。 本種は昆虫やクモなどの小動物(他種のトカゲや同種も)を捕食する。小笠原諸島固有のオガサワラトカゲよりも大型でジャンプ能力も高いため、セミなどのかなり大型の昆虫なども捕食できる。 小笠原諸島は海洋島*4ゆえ、陸上生物の固有率が高く、たとえばカタツムリでは約94%が、植物では約42%が固有種である。昆虫もその例にもれず、約28%が固有種であるとされており、うち10種が国指定の天然記念物である。しかしながら現在、父島・母島では、大型で体が固いオガサワラタマムシやオガサワラクマバチ、一生を水上で過ごすオガサワラアメンボ(母島列島未分布)やオガサワラセスジゲンゴロウを除いて、トンボ(シマアカネ、オガサワライトトンボ、ハナダカトンボ、オガサワラトンボ)やオガサワラシジミは激減もしくは絶滅しており、その影響はオガサワラゼミにまで及びつつある。さらに天然記念物に限らず、昼行性・樹上性の昆虫が激減している。 この原因は、数々の状況証拠や、グリーンアノール未侵入の島々では昆虫類が減っていないことなどから、本種によるものであると結論づけられた。そのため、本種は2005年6月に特定外来生物*5に指定された。 現在、兄島ではグリーンアノールの推定分布地域に大量の粘着トラップ(ゴキブリホイホイのようなもの)を設置して捕獲するとともに、推定分布地域の外側に二重にフェンスを設置して拡散を防いでいるが、フェンス外でも捕獲されており、兄島のどこまで分布しているかは不明である。また、推定分布地域のすべてのグリーンアノールを粘着トラップで捕獲できてはいない状況である。 小笠原諸島では、1975年から1985年までかけて、聟いだった」と述べている*3。 グリーンアノールはイグアナ科に属し、北米南東部を原産地とする日中活動性で樹上性のトカゲである。本種の小笠原諸島への侵入経緯については、父島には米軍統治時代の1965年頃に、グアムから物資に紛れてもしくはペットとして持ち込まれたと推定されている。その後、1990年頃までにほぼ全域に分布するようになった。母島には1980年代初頭に父島から集落地に複数回持ち込まれたと推定されており、1997年までにはほぼ全域に分布するようになった。減少すると、植物を含む生態系が崩壊し、世界自然遺産としての顕著で普遍的な価値が失われてしまう。 このため、科学委員会は3月27日に「兄島に侵入したグリーンアノールに関する非常事態宣言と緊急提言」*2 を発表した。 兄島と父島との距離はわずか1キロあまりとはいえ、間には海がある。そのため、専門家を含む多くの人びとは、兄島にグリーンアノールが渡るとは想定していなかったのではないだろうか。実際、7月13日に開催された科学委員会の会合で、ある科学委員は、「兄島にアノールが入り込まないと思い込んで、対策を取らなかったことが間違息の長い闘い小笠原諸島の昆虫類とその減少グリーンアノールとは右上:シマアカネ。小笠原諸島固有種。赤トンボの仲間ではなく、ハラビロトンボの仲間に近縁といわれている。 左上:オガサワラゼミ。小笠原諸島固有種。セミが海洋島に分布することは珍しい。南西諸島に分布するクロイワツクツクに近縁といわれている。 右下:オガサワラトカゲ。小笠原諸島固有種。グリーンアノールよりもほっそりとして控えめな感じがする。 左下:オガサワラシジミ。小笠原諸島固有種。翅の裏は独特の色に輝く。*4 海底火山などが海上に隆起してできた島。大陸とは繋がったことがないために島の生き物はすべて海を渡ってきたものとなり、固有種が多くなる。⇔大陸島 *5 明治時代以降に日本に入り込んだ外来生物で、農林水産業、人の生命・身体、生態系へ被害を及ぼすもの、または及ぼすおそれがあるものの中から、外来生物法に基づき指定された生物。許可なく飼育や移動は禁止されている。 *6 家畜ヤギが野生化したもの。兄島でのグリーンアノール駆除作業。乾性低木林内に設置した捕獲用のトラップの交換作業。島内・島外の多くの若者がかかわっている。兄島のグリーンアノール侵入防止フェンス。乾性低木林を縫うように設置されたフェンスは一見、万里の長城のようである。203

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