雑誌「チルチンびと」85号掲載 小笠原からの手紙
1/2

 西島は小笠原の主島、父島の西北西2キロにある小さな島である。かつては小笠原本来の樹林で覆われていたが、侵略的外来種であるモクマオウが入り、ほぼ全島がモクマオウに占拠された。小笠原が世界自然遺産に指定されて以来、林野庁が毎年モクマオウの駆除を続けているが、私たちもその一部を担い民間の助成金により、植生回復の活動を行っている。 ボランティアというと報酬のない奉仕という意味合いが一般に強いが、この語はもともと「志願兵」「義勇兵」ということで、要は自ら進んで活動に参加する、つまり自主性が大きな要素である。私たちが行っている活動には、西島の植生を回復するためなら進んで参加しようと、有志が多い時には20余名、少ない時でも数人は集まる。本年度は西島の2カ所で活動している。 私たちの活動場所は西島の西南西の南側斜面で、5年前に林野庁がモクマオウを伐採し、その後草原になったところである。この草原に樹林を復活させようとするのが活動の目標である。まず、その方法を検討した。 活動予定地は、夏はひどく乾燥し、冬は強風にさらされ潮風が吹き上がってくるという厳しい環境。苗を植えても活着は無理である。種子を蒔いて、芽生えの時からこの厳しい環境の中で育っていく方法がよいとの結論になった。 しかしもう一つの壁があった。小笠原が世界自然遺産になってから、いくつかの植物種について各島のそれぞれの遺伝子調査が行われた。その結果、島ごとに遺伝子に違いがあることがわかった。つまり、島ごとに別々の進化が進みつつあるので、同じ植物種のものであっても、父世界自然遺産に登録され注目を集める、小笠原の豊かな自然と文化を、現地在住の研究者が紹介します。文、写真・安井隆弥富士フイルム・グリーンファンド助成の活動西島のボランティア活動西島の植生回復vol.19父島、兄島のほど近くに位置する西島。植生回復事業が行われている。やすい・たかや/1931年生まれ。生物教諭として都立八丈高等学校勤務を経て、78年〜91年、都立小笠原高等学校勤務。定年退職後も小笠原に留まり小笠原野生生物研究会を設立。2000年にNPO法人化、理事長となる。著書に同会著『小笠原の植物 フィールドガイドⅠ、Ⅱ』(小社刊)がある。PROFILE島の斜面をすっかり覆い尽くしてしまう侵略的外来植物モクマオウ。156

元のページ 

page 1

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です